雑 学 教 室

 

 

秋施肥はどのようにして始まったの
米国のタバコ産地はどんなところにあるの
米国のバーレー種耕作法にはどんな特徴があるの?
弁当肥(ごえ)にはどんな効果があるの
新品種登録制度は何のためにあるの
熱帯モンスーンの南インドでのタバコ栽培ってどんなの
耕盤破砕はどうして必要なの
タバコとナスやトマトはどこが似ているの
ポリフェノール含量は葉たばこの品質とどんな関係があるの
極端に雨の少ないトルコやギリシャではどんなタバコが栽培されているの
葉たばこはいつ頃、どのように収穫するの
植物の刺激応答はどうなっているの()
「接触型わき芽抑制剤」を上手に希釈するにはどうすればいいの?
バーレー種の香喫味はいつ頃形成されるの
病害抵抗性品種はなぜ病気に罹らないの
たばこの葉型は何種類あるの
植物の刺激応答はどうなっているの
在来種種やバーレー種ではなぜ幹ごと刈り取るの
タバコはC3植物である、とはどういう意味なの
昔からの銘葉産地土壌にはどんな特色があるの
造成農地におけるたばこ栽培では、どれぐらいの耕土が流出するの
たばこの根の張り方はどの品種でも同じなの
データの統計処理にはどんな意味があるの
タバコ黄斑えそ病はどうして広範囲に発生するの 
凍霜害に加担するものがいるの
タバコ畑に集積している塩素はどうすれば簡単に除去できるの
産地土壌には
10a当たり何kgの有効養分があるの
野菜跡地土壌にはどんな問題点があるの
タバコの施肥法は、どうして中層条肥が一般的となったの
施肥窒素は土壌中でどのように移動するの
日本の在来種にはどんな特徴があるの−その2
土壌病害の発生と土壌酸度にはどんな関係があるの
アブラムシの飛来予測はできるの
たばこ畑の害虫はどこからやって来るの
染色体って何のことなの
立枯病の発病抑止土壌はあるの
立枯病菌の遺伝子はどこまでわかってきたの
土壌消毒をした畑ではなぜ減肥が必要なの
極早生タイプの品種はたばこにもあるの
たばこへの菜種油粕の効果ってどんなこと
たばこ圃地の通気や排水が悪いとどうしていけないの
生物農薬にはどんなものがあるの
IPMとはどういうことなの 
カリウムは植物体内でどんな働きをしているの
たばこの内容種って何を意味するの
タバコはどんな養分が好きなの

世界の土壌はいま、そして日本では(その3)
アブラムシの薬剤抵抗性(その1)
アブラムシの薬剤抵抗性(その2)
生理的斑点病はどんなときに発生するの
たばこの細胞を培養する技術はどんなことに役立つの
昔のたばこ栽培ではどんな肥料が使われたの
バークやおがくずの入った厩肥を堆肥化するにはどうすればいいの
石灰含量が適範囲以上なのにどうしてpHの低い土壌があるの
タバコの根は畦の下層からどれぐらいの窒素を吸収できるの
たばこの害虫はたばこを食べる以外にどんな悪さをするの
たばこ用の除草剤にはどんな種類があるの
たばこの花粉は長期間保存できるの
世界の土壌はいま、そして日本では(その1)
世界の土壌はいま、そして日本では(その2)
植物ウイルスの分類はどうなってるの
たばこには治る病気と治らない病気があるの
ニコチンを作らないたばこの品種はあるの
タバコ属の野生種もニコチンを作るの
斑入りのたばこ植物ってあるの
日本の在来種にはどんな特徴があるの
土壌が酸性化するとどうしていけないの
堆厩肥の窒素はたばこにどんな効果があるの 
土壌消毒をすれば病気はでないの
たばこはどんなときに病気に罹るの
たばこの種子の寿命はどれくらいなの
タバコモザイク病に強い品種はどうやって作られたの
オリエント種ってどんなたばこなの
病気に強い性質はどうやって調べるの

塩素の過剰吸収はなぜ有害なの
たばこにつくアブラムシはどうやって越冬するの
紅葉はなぜ発生するの
日本ではどうして色々な品種のたばこが栽培されているの

若返るっていいことなの
若返りはどんなときに起きるの
たばこの花の色はピンクだけなの 
ウイルス病を防ぐ薬剤はあるの
立枯病に強い黄色種はどうやって作られたの
遺伝子組換えはたばこでもできるの    
たばこのわき芽はなぜ何度も生えてくるの
たばこはどんな土が好きなの  
たばこは日の長さが短くなると早く開花するって本当なの
移植の時期はどうやって決まるの 
たばこの花はなぜ摘みとってしまうの
葉たばこには味や香りのほかにどんな品質や特性が大切なの
タバコにはどんな種類があるの
たばこの楽しみ方には色々あるの
タバコはどんな仲間の植物なの
タバコの原産地はどこなの
南米原産のタバコがなぜオーストラリアやアフリカにも分布してるの
タバコは最初、どのように利用されたの
野生種タバコも利用されていたの
たばこの種子はどうしてあんなに小さいの
たばこの畦はどうしてあんなに高いの
畑のたばこの葉の表面がネトネトしているのはなぜなの
ニコチンを含む植物はたばこだけなの
乾燥中にたばこの中で何が起きてるの
黄色種とバーレー種で葉たばこの色が違うのはなぜ
たばこの害虫はたばこを食べてなぜ平気なの
乾燥を失敗するってこともあるの

秋施肥はどのようにして始まったの

 雪解けの遅い北陸地方山間産地では、かって基肥施用・畦立て・畦面被覆等の移植準備作業が雪の少ない海岸産地に比べて遅れやすく、タバコの移植は4月中旬にずれ込み、初期生育が遅延したり、産葉の品質が低下する等の弊害が見られました。

 そこで、日本専売公社金沢地方局(当時)では積雪地帯で移植時期を早める方策として、基肥を前年秋の降雪前に施用し、翌春の雪解けを待って4月上旬にタバコ(黄色種)の移植作業を行う方法を考案しました。これはタバコの「秋施肥栽培」といわれ、昭和40〜43年にわたって同域内で集中的に試験され(大倉、葉たばこ研究 49号、1968)、その後急速に産地普及された技術です。それでは、その技術の特徴を紹介しましょう。

 秋施肥栽培法では11月に基肥を施用して畦立てし、それと同時にクロルピクリンの植穴消毒を行い、畦面をポリフィルムで被覆します。この栽培法によると、 移植は従来の栽培法より7〜10日早められ、移植苗の活着と初期生育が良好で、窒素吸収も順調に経過します。その結果、タバコの作柄は従来より著しく早進し、産葉の品質と熟度は大いに改善されました。この作柄の早進には、秋施用された肥料や有機物の分解が移植時までにかなり進んでいることや、移植時における畦内の土壌条件(地温、水分)の良いこと等が関与しています。

 次に、秋施肥では肥料窒素はどのように土壌中で変化し、動くのでしょうか? 移植前における硝化率(硝酸態窒素に変化した割合)は土壌の種類や土壌消毒の有無でかなり異なりますが、肥料窒素は硝酸化成がかなり進行しても施肥位置からほとんど移動しないこと

(中山ら、葉たばこ研究 55号、1970)が明らかにされています。このように、積雪下でも硝酸化成はかなり進みますが、当初危惧されていた肥料の流亡はほとんどなく、これによってタバコに窒素欠乏が生じたとか、早期に肥料切れが起きたということはほとんど見られなかったようです。先述した金沢地方局の試験では、増肥も検討されましたが、タバコの生育や収量からみて窒素を増肥する必要はないという結論に達しています。

 以上のように、金沢地方局で確立された秋施肥栽培法は、タバコの初期生育を促進し、品質・収量ともに良好であったことから、排水不良地での肥料流亡、積雪による表土沈下と固結、移植時の雑草繁茂等の問題を克服しながら北陸地方のみならず東北地方の積雪地帯へも広く普及していきました。

(喜田村俊明)


米国のタバコ産地はどんなところにあるの 

アメリカ合衆国の葉たばこ生産量は、1999年の統計では57.6万トンで、中国、インド、ブラジルに次ぎ世界で第4位となっています。葉たばこは米国の重要な輸出農産物の一つですが、米国産の葉たばこは黄色種、バーレー種とも特有の芳香と香味が豊かで、くせが少なく、品質的にも高く評価されております。

 米国のタバコ産地は、大西洋側を南北に走るアパラチア山脈の両側に広く分布しております。このうち、黄色種は、北からウェストバージニア州、バージニア州、ノースカロライナ州(葉たばこ生産高は全米の約4割を占め第1位)、サウスカロライナ州(全米第3位)とジョージア州で、バーレー種は、オハイオ州の南端とケンタッキー州(全米第2位)、テネシー州でそれぞれ栽培されています。これら各州の大半はタバコ州と言われているほどで、栽培の歴史も長く、葉たばこは主要農産物として高い地位を占めているのです。
 それでは、米国の葉たばこはどのような自然環境下で栽培されているのでしょうか?
 
 黄色種産地は、アパラチア山脈の中にあるウェストバージニア州を除き、主として同山脈から大西洋に向かって低く傾斜するピードモント台地から海岸平野に分布しています。
 伝統的にタバコ栽培の盛んなピードモント台地の土壌は、古生代の古い岩石が長期間にわたり風化と洗脱作用を受けて生成した赤味の強い土です。その景観は、"Red clay hill (赤い粘土の丘)"と呼ばれていますが、この赤土はアトランタ(ジョージア州)周辺を舞台とした映画「風と共に去りぬ」でご覧になった方も多いのではないでしょうか。海岸平野の土壌は、国沢氏の調査(1966)によれば、耕土は層厚30cm程度の透水性の良い砂壌土ですが、下層土は粘土分も含み、高品質葉の生産に好適な土壌であるとされています。

一方、バーレー種産地は、アパラチア山脈西側のレキシントン石灰岩を基岩とする幅広い丘陵地帯の牧草地上に形成されております。その土壌は石灰岩を母材とする壌土で、地味はカバークロップ(麦類)の鋤込みにより肥えており、耕土の深さは30cm程度と中庸です(河田:葉たばこ研究 102号、1986)。米国の土壌調査結果によれば、中心部のブルーグラス地域(ケンタッキー州)の土壌窒素供給力は比較的高く、山脈東側の黄色種産地とは対照的であるといえます。

上述した地域はいずれも温暖湿潤気候の中にあり、その年間降水量は1,000〜1,300mmです。移植時期の5月になると気温は急速に上昇し、生育期から成熟期の6月から8月までは我が国より最高気温が高く、最低気温は低めであり、気温の日較差が大きいことを示しています。また、その間の月別降水量は100mm内外ですが、我が国のような梅雨型の降雨ではなく、短時間であがるため日照時間は我が国の2倍以上とはるかに多く、タバコに品種特有の芳香をもたらすものと考えられています(大堀、葉たばこ技術研究史、1991)。
米国においても、タバコの生育・成熟に最も適した土壌・気象条件の地に産地が発展し、伝統的な耕作技術が確立されたといえましょう。

(喜田村俊明)

 



米国のバーレー種耕作法にはどんな特徴があるの?


米国で生産されるバーレー種は、香味が豊かで、品質的に高く評価されていますが、耕作法にはどんな特徴があるのでしょうか?1985年の河田氏による現地調査の結果からその特徴を抜粋してみることとします(葉たばこ研究102号, 1986)。

米国バーレー種耕作農家の平均タバコ栽培面積は0.96haで我が国と大きな違いはありませんが、他作物や牧草地を含めた全経営面積となると27.6haにもなります。たばこ畑の多くは丘陵地の広い牧草地の中にあります。タバコの作付けは3年連作が多く、有機物の補給は幹刈り後に播種した麦類を緑肥として翌春の耕起時に鋤込みます。肥料は畑に全面撒布されますが、施肥量は畑の土性や地力によって異なり、窒素に対する燐酸と加里の比率はそれぞれ1/2および1程度あるいはそれ以下です。

栽培品種はF1品種が全体の約3/4を占めて最も多く、耕作者は保証された品種の中から病害抵抗性や収量・品質等自分の畑に適したものを選択できます。育苗は無加温の地床で、間引きや仮植をしない通し床方式で13葉苗になるまで行われます。
 移植は、5月中旬頃から始まり、2畦用の移植機を用いて平地(平畦)に行われますが、マルチ等の被覆は行われておりません。なお、畦株間距離は100cm×50cm(植付本数2,000本/10a)が標準となっています。

 心止は8月上旬の開花1輪50%時に4枚程度をわき芽とともに手摘みします。
 幹刈収穫は心止30日後を目安に全葉幹刈で9月上旬に行われます。この時、タバコの草姿は円筒型を示し、葉色は下位葉の退色が少なく、緑色を残しており、枯れ上がりは見られないそうです。全葉幹刈収穫法とは、連干収穫を行わず、収穫葉をすべて幹に着けたまま幹を刈り取り、その幹を長さ1.3mのスティックに6本ずつ刺して、畑で2日間粗水切り後、4〜5段吊りの木造乾燥室に吊り込むものです。

木造乾燥室には、幹刺したスティックが3.3u・1段当たり約75本吊り込まれ、40〜45日かけて乾燥されます。木造乾燥室の温度は、外気温が30℃以上の暑い日が続いても25〜30℃の間に保たれ、外気温よりかなり低く推移し、葉の乾燥はゆっくりと進められ、豊かな香味を発現させているのです。

我が国のバーレー種産地では気象条件や圃地環境に恵まれていないこともあり、その耕作法が米国と著しく異なっているところも見受けられます。しかし、我が国では、その不利な条件を克服するために多くの新技術や機械化技術が開発され、葉たばこの品質や労働生産性の向上に大きく貢献していると言ってよいでしょう。

(喜田村俊明)

 


弁当肥(ごえ)にはどんな効果があるの

 弁当肥(ごえ)とは本畑への移植直前に苗床で施す速効性の肥料を指し、平成3年に日本たばこ産業(株)が発行した「葉たばこの耕作法」には、「移植1〜2日前に、3.3u当たり液肥(スイヒゲン等)200gまたは燐安系肥料100gを水10gに溶かして散布(追肥)し、散布後十分に灌水して葉に付着した液肥を洗い落とす。」と書かれています。たばこの苗が苗床から環境の厳しい本畑へ移るときに、お弁当として持たせる愛情を込めた肥料であることから、弁当肥と呼ばれているわけです。

 たばこが本畑へ移植された直後には、畑の肥料を吸収する力がありませんので、10日から2週間ぐらいの間は、苗床で吸収した体内の養分と苗の抱土(根の回りについている苗床由来の土壌)に含まれる肥料成分で生活しなければなりません。この時期に窒素飢餓という状態になりますと、初期生育の遅れを招き、後々までその影響が持続します。移植後30日目の生育状況は、移植後10日目の栄養状態で決まるといっても過言ではありません。弁当肥には、移植直後の栄養状態を良好に保ち、初期生育を順調に行わせるためのスターターとしての効果があります。

 過去に行われた試験研究の成果によりますと、移植後10日目の栄養状態に関しては、抱土に含まれる可溶性窒素成分が重要な役割を担っています。植え傷みといわれる現象には、抱土の脱落による窒素飢餓という原因も考えられますので、移植の際に折角のお弁当を落としてしまわないように気をつけることが大切です。初期生育が遅れたたばこは晩作化しやすく、初期生育は移植直後の苗の栄養状態によって左右されることを考えれば、昔からいわれてきた「苗半作」という言葉の意味も理解できるような気がします。

(佐藤昌良)

 


新品種登録制度は何のためにあるの

 日本における植物新品種の登録制度は、種苗法という法律に基づいています。種苗法は1978年に制定されましたが、その後数次の改正があり、1998年の全面的な改正では、農林水産物の生産のために栽培される全ての種子植物、しだ類、せんたい類、多細胞の藻類その他政令で定める植物がこの法律の対象であるということになりました。

種苗法は、品種育成者の権利を保護し、品種育成の振興と種苗流通の適正化を図るという意図のもとに制定された法律です。農林水産大臣の審査を経て品種が登録された場合には、以後20年(永年性植物では25年)にわたって権利が保証されることとなります。権利の内容はかなり幅の広いものとして規定されていますが、第三者が当該品種の種子や苗を販売目的で生産しようとする場合には、当然のことながら、権利者の許諾を得なければなりません。無断で一代雑種の片親に使用することも禁じられています。ただし、出願できる品種には一定の条件が付けられていますので、たばこの場合も、昔から栽培されていた品種などは制度の対象外ということになり、過去に登録された品種と新品種だけが制度の対象になります。

種苗法では、国際間の条約が重要な地位を占めていることに注目しなければなりません。もともと、日本における種苗法の改正には、1961年にフランスのパリで締結され、その後何度も改正されている「植物の新品種保護に関する国際条約(UPOV条約)」が重要な役割を果しています。日本はこの国際条約に加盟するために国内法の整備をすすめ、さらに加盟後も、国際条約の改正にあわせて国内法を改正しているというのが現状です。国際条約の流れは、対象植物の範囲の拡大、品種育成権者の権利の拡大という方向にありますので、加盟各国とも、国際的な調和を図る努力が求められています。

最後に、国内の品種登録の現状に触れておきましょう。2001年度末までの出願件数は累計で14,801件、登録件数は10,236件に達しています。外国からの出願も4,216件に及び、この制度が国際的な機能を果していることがわかります。1998年には、お隣の中国でも植物新品種保護条例が施行され、その影響が注目されていますが、新品種登録制度には、外国の権利も尊重し、全体の調和を図るという目的があると考えるべきではないでしょうか。

(佐藤昌良)

 


熱帯モンスーンの南インドでのタバコ栽培ってどんなの

インドは中国に次いで世界第2位の葉たばこ生産国で、その生産額は1999年の統計では70.2万トンで、1982年に比べると58%も増加しています。インドにおける輸出用黄色種の主要産地は、ニコチンの少ない軽質葉に対する海外需要の増加に伴って、20数年前頃に南インドのデカン高原上の「半乾燥地域」へと拡大してきました。

この「半乾燥地域」の黄色種産地は、デカン高原西側に位置するバンガロール西方のカルナタカ産地とデカン高原東側に位置するグンツール周辺の産地とに大別できます。両産地は、いずれも年降水量が500〜1,000mmの範囲にあって、インドの名称でRed soilか Red loamと呼ばれる赤茶けた砂〜壌土質の土壌に覆われています。この土壌は、水分保持力が低く、耕土が浅くて下層土は緻密、腐植含量や有効養分も低いという特徴がみられます。

 インドといえば、典型的な熱帯モンスーン気候の中にあります。1,2月は北東モンスーンによる冷涼季(南部では気温が高い)、3〜5月は暑季、6〜9月は南西モンスーンによる雨季となっています。カルナタカ産地では、最高気温は暑季で30数℃、南西モンスーン季で30℃前後であり、年間降水量は800〜900mmの範囲にあるようです。一方、東側の産地では、最高気温は暑季には47℃にも達し、年降水量は1,000mmぐらいです。

南インドで栽培されている品種は黄色種Flue cured Virginia Specialで、移植は南西モンスーンの到来が間近となった5月中〜下旬に、基肥は移植1〜3週後に、追肥施用は移植3〜4週後に行われています。10a当たり施肥量はN 3.9〜4.9, P2O5 6.9, K2O 8.8〜11.3kg/10aで、我が国に比べるとかなり少なく、窒素源は燐二安と硝酸石灰です。

 基肥と追肥は、活着したタバコの株元から約10cm離れた両側に、棒で深さ10cm程度の小孔を作り、その中に施用されます。これは、少量の肥料を効率よく利用できる施肥法といえます。有機物は、牛糞や残幹等が燃料となるため、小家畜の糞等が施用されているようですが、地温が高いため分解が早く、窒素の肥効はより速効的といえましょう。

カルナタカ産地の黄色種は、南西モンスーン季の驟雨的な降雨と豊富な日照を利用して栽培されています。発蕾期〜心止期にかけてのタバコの栄養状態は、施肥量が少ないにもかかわらず良好で、品質型の作柄を示していたものです。また、最近の葉たばこ生産額の急速な上昇から推測しますと、 以前に比べ10アール当たり収量も増加してきたのではと思われます。

(喜田村俊明)

 


耕盤破砕はどうして必要なの

トラクタや作業機が走行する時、土壌は車輪による踏圧作用を受けますが、踏圧が繰り返えされると、耕土中あるいは耕土下に固結した緊密な土層を生じます。また、20cmぐらいの深さの普通耕でも毎年行っていると、耕土部分の切削された底面が犂底で押さえられ、固められます。そして、雨水とともに下降してきた粘土分が固結した土層の上に沈積して固まり、さらに堅くて緻密な固結層が形成されます。この耕土部分の下方に形成される固結層を「耕盤」といいます。 

この耕盤が形成されると、土壌の空隙が少なくなって水と空気の通りが悪くなり、排水不良や雨水の停滞による湿害をもたらし、作物の根の伸長や生育を阻害します。また、傾斜地では降水量が多い場合、土壌浸食さえ起こしやすくなるのです。

このようなことから、固結した土層を破砕して、通気性や透水性を改良する作業を「耕盤破砕」といいます。この作業は、心土部分のみを破砕してぼう軟にするので心土耕ともいわれます。それでは、耕盤破砕はどのような機械を用いて行われるのでしょうか?

耕盤破砕用の機械はサブソイラーが一般的ですが、牽引抵抗が大きいため、30cm前後の耕深を維持するには30馬力以上の乗用トラクタを必要とします。
 振動式耕盤破砕機は、チゼル(のみ刃)を固結した土層中に貫入・振動させ、耕盤を破砕します。土層は全層に割れ目を生じ、心土部分のみ破砕・ぼう軟化するのに効果的といわれています。また、同時に直径約10cmの弾丸(モール)を牽引し、地下に作孔することで浸透水を集め、簡易暗渠として圃場外に排出します。これは弾丸暗渠と呼ばれています。

耕盤破砕は、一般に2〜3年に一回実施し、その作業間隔は1〜3mとし、次回はそれと直角になる方向で行うのがよいとされています。

(喜田村俊明)

 


タバコとナスやトマトはどこが似ているの

 タバコはナス科の植物であり、ナス、トマト、ピーマン、バレイショも同じナス科に属していますので、同じ仲間の植物であるといわれます。ナス科には75属以上(一説には90属)が含まれ、種の数は約2,000といわれていますので、われわれが作物として目にしているものはそのごく一部に過ぎないわけですが、同じ仲間であるといわれるからには、どこかに似た点があるはずです。

 タバコとほかのナス科野菜を見比べた場合、まず気がつくのは、花の形がよく似ていることです。5枚の花弁がありますが、切れ込みがあるのは花の途中までで、桜の花のように花びらが完全に離れているわけではありません。花弁がくっついた形をしていることが特徴です。植物学では、このタイプの花を合弁花と呼んでいます。

 花の形態以外にあまり似た点は見つかりませんが、遺伝学的に重要な意味を持つ染色体数を見てみましょう。タバコの染色体数は48ですが、染色体数24の二つの種が合体してできたものです。ナス、トマト、ピーマンの染色体数は、いずれも24です。バレイショの染色体数は48ですが、タバコと似たような倍数性の植物であり、染色体数24の植物の合体あるいは倍加によって成立したものと考えられています。これらの染色体はそれぞれの作物によって異なるものであり、同じものではありませんが、その数が同じであることは、偶然とは考えられません。

 最後に各作物の原産地について述べておきます。上述の作物のうちナス以外はすべて南米が原産地とされていますが、ナスの原産地はインドであるとされています。ずいぶん距離が離れているように感じますが、植物の進化がはるか以前にさかのぼり、その頃には世界の大陸は一つであったと考えれば、それほど不思議な話ではないと思います。

(佐藤昌良)

 


 

ポリフェノール含量は葉たばこの品質とどんな関係があるの

有機化学の本に必ず登場するいわゆる「亀の甲」はベンゼン環と呼ばれますが、このベンゼン環に水酸基(-OH基)がついた物質はフェノールと呼ばれ、水酸基が二つ以上ついている場合には、ポリフェノールと呼ばれます。ポリフェノールは酸化されやすく、還元性が強いことから、ポリフェノールを含む飲料などが健康飲料として宣伝されるようになりました。ちなみに、茶の紅茶用品種はポリフェノールを多量に含み、葉の乾物重の30%を超えるポリフェノールを含有することも珍しくありません。

たばこの葉に含まれるポリフェノール類の中では、クロロゲン酸という物質の含量が最も高く、乾物重の2〜3%を占めています。二番目に多く含まれているのはルチンという物質ですが、これも乾物重の1%前後を占めています。したがって、たばこの葉に含まれるポリフェノールの量は、茶には及ばないまでも、決して少ないとはいえません。

たばこの葉のポリフェノール含量には地域差や年次差が認められますが、一般に、ポリフェノールを多く含む葉たばこは品質が良く、上級品であるとされています。ポリフェノール自体が葉たばこの品質を良くするというよりは、ポリフェノールを多く含む葉たばこは熟度が良く、品質を良くするその他の成分も多量に含まれているのだと解釈すべきかも知れませんが、とくに葉たばこの色彩は、ポリフェノール含量と密接な関係があると考えられています。バーレー種の場合は、葉たばこの褐色の濃さと関係があり、下位葉と上位葉で褐色の濃さが違うのは、ポリフェノール含量が異なるためであるといえます。また、米国産バーレー種は日本のバーレー種に比較して褐色が濃いといわれますが、これもポリフェノール含量の違いに起因するものといえそうです。

一方、ポリフェノールは燃焼するとフェノールを発生し、煙に含まれるフェノールのもとになることが知られています。煙のフェノールはあまり歓迎されない成分ですから、その意味では、逆にポリフェノール含量が極端に低い品種を探索することも重要であるといえるかも知れません

(佐藤昌良)

 


極端に雨の少ないトルコやギリシャではどんなタバコが栽培されているの

1999年の世界の葉たばこ生産量をみると、トルコは26.2万トン、ギリシャは 我が国の丁度2倍にあたる12.6万トンで、それぞれ世界の第5位、第9位に位置しています。

タバコは、トルコではエーゲ海沿岸と黒海沿岸地域で、ギリシャではエーゲ海に面した地域で主に栽培されていて、そこでは冬に雨が降り、夏に暑い乾季がくる地中海性気候が卓越しています。タバコ産地の年降水量は、トルコのイズミールで700mm、サムスンで731mmであり、ギリシャのテッサロニキでは約465mmに過ぎません。

 ギリシャでは、タバコは乾季の始まる5月下旬に移植され、雨の多くなる9月末までに乾燥を終えますが、これは葉の拡大徒長とそれに伴う品質低下を防ぐためです。畑の土壌水分は、耕土では移植期(5月)には既に低く、7月には乾ききった状態となっており、心土でも5月以降減少する一方です。そのため、地中海沿岸の農業は、タバコと異なって夏がくるまでに収穫を終えることで成り立っているのです。

 それでは、農作物にとってこれ程過酷な自然条件の中で、トルコやギリシャではどのような種類のタバコが栽培されているのでしょうか?

トルコやギリシャで栽培されている葉たばこは「オリエント種」、別名「トルコ葉」ともいわれ、黄色種やバーレー種とは形態や香喫味を著しく異にしています。オリエント葉は、空気乾燥種のひとつで、軽くてマイルドな味のアメリカンブレンドに必須の葉組み原料であり、そして特有の芳香をもつトルコ巻の主原料として、その特有な香気が原料葉たばことして古くから重視され、賞用されてきました。なお、我が国で製造されたトルコ巻としては、東京オリンピック協賛たばこの「オリンピアス」とか「TOKYO 64」があります。

 オリエント種には多くの栽培品種があり、その葉数は30~40枚、草丈は0.8~1.2m、葉型は極小型〜大型までといろいろで、形態は品種間でかなり異なっています。これを香喫味との関係でみると、葉型が小さくて収量の低いほど(例えばキサンチでは50~80kg/10a)、香喫味は明らかにすぐれているのです。福澄氏による現地調査の結果(1968年)では、開花期の生育状況は、全葉数33~34枚、草丈約50cm、最大葉の葉長15cmぐらいでしたが、直根の発達等により葉の枯れ上がりはありませんでした。乾燥は収穫葉を糸通し日干し法によって行われ、6~15日でオリエント種特有の黄色に固定されるようです。オリエント種特有の香気の発現には、気象条件では少ない降水量と長い日照時間、高い環境温度、土壌環境では低土壌水分と極端な地積制限が大きく関与していることが知られています(葉たばこ技術・研究史 生理・栽培編, 1991)。

 オリエント種の栽培は、ギリシャ、ブルガリアからトルコに至る地中海性気候の乾燥した石灰岩地帯に限られておりますが、オリエント種は形態的に乾燥に強い草姿を示し、ふつうの作物の栽培には過酷な自然条件の地が、オリエント種にとって実は適地であったということになります。

(喜田村俊明)

 


葉たばこはいつ頃、どのように収穫するの

 タバコの葉は、心止を迎える頃から下位から上位にかけて徐々に成熟が進み、適熟に達したものから、順々に収穫されていきます。収穫葉の熟度は、乾葉の品質や香喫味に大きく影響するので、収穫にあたっては適熟に達した葉を的確に見分ける必要があります

 それでは、葉たばこはどのような徴候を示すようになると収穫適期となり、どのように収穫されるのでしょうか?

1)黄色種

 中葉系は、葉全体が黄化し、中骨が白味を帯びるかあるいは白化してくると適熟の判定の目安となります。また、葉が適熟に達していると、品種や着位にかかわらず葉をかき取る時にポキッと音をたてて折れます。下葉から合葉までの収穫は、4〜5回に分けて適熟葉を下から順に2〜3枚ずつかき取ります。
 本葉系は葉の表面が凹凸となり、その葉色が黄緑色と黄色のまだら(虎ブチ)となって、葉先が垂れてくる頃に、一度に8枚程度まとめて着位別に収穫します。総がきの適期は心止め後45〜60日といわれています。

2)バーレー種

 中葉系は、葉色が淡黄緑色(中葉)あるいは黄緑色(合葉)となり、中支骨が白色味を帯びた頃が適熟になった目安となります。下葉から合葉までの収穫は、2〜3枚ずつ5〜6回にわたってかき取り、連縄やハンガーに編み付けて乾燥します(連干乾燥という)。
 本葉系は、全体が黄緑色を呈し、中支骨が白色味を帯び、上位の葉には黄斑の虎ブチが見える頃が適熟になった目安となります。本葉系の収穫葉数は10〜12枚ですが、さらに2〜3枚の連干収穫を1〜2回行った後、残りを総もぎする場合と、数枚から10枚程度の葉を幹に付けた状態で幹刈りし、幹ごと乾燥室に吊り下げる場合(幹干乾燥という)とがあります。なお、10〜12枚の着葉数で幹刈りする場合は、心止め後35〜40日を目途に幹刈りします。

(喜田村俊明)

 


植物の刺激応答はどうなっているの()

 植物が病原微生物などに侵されかけたとき、植物は固有のシステムを発動して防御反応を示します。この防御応答は害虫の食害を受けたときも発動され、それも加害者に対する毒物(アルカロイドなど)の産生などの直接的なものだけではなく、外部にシグナルを発信して間接的に身を護ろうとする極めて巧妙なものであることが近年分かってきました。植物は揮発性の化学物質を使って交信をしているのです。

 タバコの野生種N.attenuata の葉がスズメガの幼虫の食害を受けると、N.attenuataは直ちにジャスモン酸(JA)という一種の植物ホルモンを増製し、そのメチルエステル(MeJA)を体外に放散します。するとMeJAに誘引されてスズメガ幼虫の寄生峰(天敵)が飛来して幼虫に産卵します。天敵に卵を産みつけられた幼虫は最終的には死亡します。MeJAの放散はスズメガ雌成虫がN.attenuataへ産卵するのを防ぐ作用もあります。このようにしてN.attenuataは化学物質を武器にして害虫の被害を最小限に抑えているのです。

 タバコとタバコガとの間でも上記と同じような現象が認められています。加えて、タバコは夜間には昼間とは別な揮発成分を放散し、タバコガの雌成虫が夜間タバコに産卵するのを防止しているということです。

N.attenuataによるMeJAの産生には加害虫の唾液の成分が引き金(エリシター)となります。リママメがハダニに侵されると揮発成分を出してそのダニを捕食する別のダニを呼び寄せることが知られていますが、単なる機械的な障害ではこのようなことはみられず、やはりハダニの唾液成分がエリシターとなってはじめて起こることです。葉が食害された場合、一部組織の一過性の損傷あるいは欠損にしか見えませんが、植物はそれを特定の刺激としてしっかりと受け止め、本来的にプログラムされた応答をしているわけです。N.attenuataがスズメガの食害を受けると500個以上の遺伝子がそれに呼応するという推測があります。

植物、食害者およびその捕食者の関係が化学物質を軸にした種々な研究で明らかにされつつあります。その成果は今後の育種や防除法の開発に役立つことが期待されます。MeJAを畑のトマトに散布したところ、天敵の寄生を受けたアオムシが倍増したと言う報告があります。

(久保進)

 


「接触型わき芽抑制剤」を上手に希釈するにはどうすればいいの?


  接触型わき芽抑制剤には、「エキガゾール」と「コンタクト」とがあり、平成元年頃から各産地でふつうに使用されるようになりました。これらの薬剤は水で希釈された後、専用ノズルを用いてタバコの幹の上から撒布され、幹を流下してわき芽やわき芽の切り口に接触・付着します。薬液がわき芽やわき芽の切り口に接触すると、有効成分や溶剤(有効成分を溶かしている液体)の作用により急激な脱水作用を引き起し、若いわき芽や発生寸前の二次芽を枯殺します。また、エキガゾールでは、有効成分のペンディメタリンがわき芽やその切り口に吸収され、局所的にその細胞分裂を阻害してわき芽の発生や生長を抑制します。

 接触型わき芽抑制剤のような乳剤は、薬剤の有効成分の大きさ(粒径)が千分の1ミリメートルぐらいと極めて小さく作られています。これは、薬剤の有効成分の粒径が小さいほど植物の組織に吸収されやすく、わき芽の抑制効果が高くなるからです。しかし、散布する薬液の調製の仕方によっては、乳剤の中に添加されている乳化剤(界面活性剤)と薬剤の有効成分が分離するため、有効成分の粒径が大きくなってしまいます。そのようになると、薬剤が植物の組織に吸収される割合が少なくなり、薬効が低下しやすくなるのです。

 それでは、どのような散布薬液の作り方をすると、薬効が低下するのでしょうか?   それは産地で時々見られることですが、計量した乳剤原液をそのまま撒布液収容タンクの中に入れて直接ホース等で水を注入したり、あるいはタンクに所定量の水を予め入れておいた後に薬剤を投入して棒で攪き混ぜる等の方法です。

 薬剤本来の効果を低下させないためには、次のような手順で撒布薬液を調製すればよく、その希釈方法をプリミックス法といいます。

@その日に撒布する面積に必要な薬剤原液をバケツ等の容器に入れ、ほぼ等量の水をそれに加えた後、棒で激しく攪拌して、十分に乳濁化します。攪拌不十分でも、薬液が乳濁化しているように見えるので均一に薬剤が分散するように十分に攪拌します。
A好ましくは、さらにもう1回同量の水を加えて棒で激しく攪拌します。
Bこの乳濁液を散布液収容タンクに移し、徐々に所定量の水を加えながら、よく攪き混ぜて散布液とします。

このようにして調製された撒布薬液でも、時間が経つにつれて乳化剤と薬剤有効成分とが徐々に分離し、有効成分の粒径が大きくなり、薬効が徐々に低下しますので、散布薬液調製後なるべく速やかに使い切ってしまう必要があります。その目安は調製後6時間以内です。それ故、撒布薬液は、撒布当日の作業面積や天候を勘案の上調製してください。

(喜田村俊明)

 


バーレー種の香喫味はいつ頃形成されるの


  葉たばこの乾燥とは、単に葉を乾かすだけではなく、その間に葉中の酵素作用によって葉の内容成分を変化させ、葉たばこ特有の色と香喫味(香りや味)を発現させる大切な作業工程をいいます。

バーレー種や在来種のような空気乾燥種の乾燥は、黄色種と異なり、自然な温度と湿度の日変化の繰り返しの中で、ゆっくりと進めることが基本とされています。

  緑色の収穫葉は、乾燥過程に入るとクロロフィルが分解して黄変し(黄変期)、やがて褐色色素が生成されて葉全体が褐色に変わります(褐変期)。

 褐変期の乾燥は、日中および夜間の温度・湿度が変化する中で進みます。すなわち、日中の高温低湿時には、葉肉の黄変部は徐々に褐変と内容成分の変化が進みますが、褐変部はカサカサに乾いており、変化は停止しています。一方、夜間の低温高湿時には、褐変部は湿りが戻って内容成分が徐々に変化していますが、乾燥はじっと一休みしています。

 自然に変温・変湿する中での吸放湿の繰り返しは、品種特有の色と香喫味の形成に重要な役割を果たしているのです(河田 葉たばこ耕作法 1991)。

 さて、褐変の進行に伴って香喫味はいつ頃から発現し、どのように変化していくのでしょうか? 
   褐変50%時には、バーレーや松川葉らしい香りは、かなり薄いながらも発現していますが、生臭み、いやみ、刺激といった香喫味に悪影響を与える要素が多く、褐変75%時にも香質の混じり、煙の粗さ、生っぽさ等が残っています。褐変90%時になると、ややざらつくものの、丸味も幾分出て、対照品に近い香喫味になり、香喫味に悪影響をもたらす内容成分の分解がかなり進んだことを示唆しています。さらに品種本来の香喫味となり、丸味が出てくるのは褐変終了時かそれより少し後になります(河田ら 葉たばこ研究68号、大堀 葉たばこ研究 84号)。

 中骨乾燥期には、褐変した葉が日中かさかさとなり、夜間にしなやかとなるという脱水と吸湿を繰り返すことによって中骨乾固を図っています。しかし、40℃を超える極端な脱水条件を与えて乾燥すると、香喫味が著しく低下することから、中骨乾燥期も香喫味の形成に大きく関わっていることがわかります(河田 葉たばこの耕作法 1991)。

  いずれにしても、バーレー種や在来種らしい香りは褐変の進行につれて発現し、品種本来の香喫味が形成されるのは褐変終了時かそれより少し後になりますが、中骨乾燥期も香喫味の形成に大きく関わっております。

(喜田村俊明)

 


病害抵抗性品種はなぜ病気に罹らないの

 たばこの主要な病害に関しては、いわゆる抵抗性品種というものが育成されています。しかし、抵抗性のメカニズムについては、必ずしも全て解明されているわけではありません。また、抵抗性の概念そのもが非常に幅の広いものであることをご理解いただきたいと思います。

 一例として、下葉に発生し易いうどんこ病について考えてみましょう。下葉の節間が短い品種と長い品種を比較した場合、短い品種のほうがうどんこ病に罹り易く、長い品種のほうが罹りにくいことは常識的にも十分考えられることです。この場合、下葉の節間が長いという性質は、うどんこ病に対するある種の抵抗性であるといえなくもありません。一方、つくば1号という品種の場合は、うどんこ病の発病は全く認められません。胞子は発芽するものの、菌糸はほとんど伸長せず、葉の内部に侵入できないことがわかっています。菌糸が伸長しない理由は今のところ不明ですが、全く発病しないものから畑での感染を軽減させる形態的な特徴まで、抵抗性にもいろいろなタイプがあることがわかります。

 抵抗性のメカニズムが比較的わかりやすい例としては、タバコモザイク病抵抗性とサツマイモネコブセンチュウ抵抗性をあげることができます。両抵抗性に共通した現象は、病原体が植物の組織に侵入した場合、病原体周辺の植物細胞が急激な過敏感反応を起こし、死んでしまうことです。その結果、病原体の増殖や移動あるいは発育が阻止され、植物の全身的な被害が回避されます。

 葉の病害である野火病や赤星病の場合は、病原体がそれぞれ特有の毒素を持っていますので、抵抗性品種は体内でそれらの毒素を解毒しているものと考えられます。しかし、それだけではなく、一部の野火病抵抗性品種の場合は、雨水が葉の内部に沁み込む程度が明らかに少ないといわれています。これも、抵抗性のメカニズムが多様であることの一例です。

 葉の病害に比較して、立枯病、黒根病、疫病といった土壌病害の場合は、抵抗性のメカニズムはあまり解明されていません。これらの病害に対する抵抗性は、全く発病しないというタイプではなく、ある程度発病を抑制するというタイプですが、土壌という環境の中では、植物の根と病原体の間の複雑な相互作用がありますので、メカニズムの解明もそれだけ困難であるといえるのかも知れません。

(佐藤昌良)

 


たばこの葉型は何種類あるの

 たばこの葉には細長いものや幅の広いものがあり、このような葉の形態的な特徴は葉型と呼ばれています。生育不良なたばこや出来すぎたたばこは葉型も正常ではなくなりますので、葉型を見れば作柄がわかるといっても過言ではありません。また、栽培方法や移植時期を変えた場合にも、葉型は微妙に変化することが知られています。しかし、一般には、品種による葉型の違いが最も大きいといえるでしょう。ここでは、黄色種とバーレー種の違いというような基本的なタイプの相違について述べてみたいと思います。

 これまでの黄色種やバーレー種を対象とした研究の結果によりますと、たばこの葉型には二つの遺伝子が関係しています。それらを仮にA、Bとしましょう。A、Bは優性遺伝子で、それらの劣性遺伝子をa、bとします。すると、二つの遺伝子の組み合わせとしては、AB型、Ab型、aB型、ab型の4種類が可能になり、たばこの葉型は4つのタイプに分類されることがわかります。それぞれの遺伝子の組み合わせは、上記の順に、極細葉型、細葉型、広葉型、極広葉型に対応しています。しかし、AB型は葉があまりにも細く、栽培には適しておりません。したがって、栽培品種については、基本的な葉型は3種類であるということになります。

日本の黄色種はいずれも細葉型すなわちAb型に属し、バーレー種は広葉型すなわちaB型に属しています。極広葉型のab型は、海外の葉巻種や在来種に見られるタイプですが、黄色種やバーレー種では極めて珍しいタイプであるといえます。なお、日本の黄色種はいずれも細葉型ですが、米国はじめ世界の各地では、広葉型の黄色種もかなり栽培されています。

以上、遺伝子の組み合わせから理解できる葉型の分類について述べました。この原理は、人間の血液型が決まる仕組みによく似ています。AB型はAB型、Ab型はA型、aB型はB型、ab型はO型と考えれば、よく似ていることがおわかりいただけるのではないでしょうか。

(佐藤昌良)

 


植物の刺激応答はどうなっているの

 初夏のころ園芸店の店先にはさまざまな草花に混じってオジギソウの鉢植が並んでいることがあります。オジギソウは植物の刺激応答を最もはっきりと観察できる身近な植物です。オジギソウでは接触刺激が電気信号(Kイオンなどの流れ)として葉や葉柄基部の運動器官である「葉枕」に伝わり、そこで急激な水分の移動が起きる結果葉が垂れるのですが、水分移動に関わるのが細胞の骨格であるアクチンという蛋白質で、アクチンのリン酸脱着(脱リン酸化とリン酸化)による構造変化がポンプの役割を果たしていると考えられています。刺激の伝達は動物の神経伝達システムに似ていますし、Caイオンが反応の制御に関与していることも興味深い点です。

オジギソウのように目に見える反応ではありませんが、微生物が植物に接した場合の植物の反応もきわめて早いことが分かってきました。植物細胞の表面に胞子が付着した時点で菌の存在を認識している例もあります。胞子の分泌物あるいは菌体成分を異物と感知すると直ちに防御体制に入ります。防御応答を誘導する異物をエリシターと呼んでいますが、植物の細胞壁がエリシターを認識すると秒単位の速さで反応して活性酸素や過酸化水素を発生させて緊急シグナルとし、細胞壊死を起こす過敏感反応(結果的に斑点などになる)、抗菌性物質であるファイトアレキシンやPR蛋白質(感染特異的蛋白質でグルカナーゼやキチナーゼなど)の産生など一連の防御応答を行って侵入者に対抗しようとします。その間にはCaイオンや植物ホルモン(エチレンなど)が防御遺伝子の発現や調節に関わります。植物には動物が持つ免疫システムはありませんが、外来の異物を排除するための植物なりのシステムを備えていることが近年の分子レベルの研究で明らかにされつつあります。

地球上には10数万種の糸状菌が存在し、そのうち植物を加害するものは約1万種と言われていますが、わが国でタバコの病原体とされている糸状菌は10数種と僅かです。病原体は植物の防衛システムを突破することがあるから病原体といわれる所以ではありますが、宿主に付けば必ず感染、増殖して害を与えるとは限りません。大部分は水際で阻止され、たとえ感染が成立しても病変部が局限されて大事至らないケースの方が多いと考えられます。多分に飛躍した表現になりますが、適切な肥培管理による健常なタバコは植物が本来的に持っている感染防御機能の活性が高く、病気に強いと言えましょう。

(久保進)

 


在来種やバーレー種はなぜ幹ごと刈り取るの

 在来種やバーレー種の場合、下位葉〜中位葉は葉をもぎ取る方法で収穫されますが、残りの上位葉は幹ごと刈り取る方法で収穫されます。乾燥も幹についたままの状態で行いますので、この乾燥法は、幹干し乾燥法と呼ばれています。幹干し乾燥法の歴史は古く、在来種の銘葉産地であった薩摩や水戸地方では早くからこの技術が用いられ、明治時代には、ほぼ完成された技術になっていたと評価されています。しかし、松川やバーレー種の産地にこの技術が導入されたのは昭和40年以降であり、今日のような一般的な技術として普及するまでには、かなりの時間を要したという経緯があります。

 幹干し乾燥法のメリットは、その省力性と葉たばこ品質への好ましい影響にあります。反面、全ての葉を一枚ずつもぎ取る収穫法に比較して、大型の乾燥施設を要する、収量が1割程度低下するというデメリットがありますが、労働時間を軽減し、かつ良質な葉たばこを生産するという目的には、幹干し乾燥法が適しています。

 在来種、バーレー種は、黄色種に比較して着葉数が多い、乾燥に要する日数が長いという特徴がありますので、一枚ずつ葉をもぎ取る収穫法では、どうしても上葉の取り遅れが起こりやすくなります。かつてのバーレー種の上位本葉や上葉には極端な高ニコチン含量のものがありましたが、収穫の遅れが原因であったと思われます。

 幹干し乾燥法が品質に及ぼす影響は、もちろんニコチン含量だけではありません。香喫味にもよい影響を与えます。在来種やバーレー種の香喫味を発現させるためには、乾燥過程で急激な脱水を避けることがきわめて重要ですが、葉が幹についたままであることが葉の水分保持に役立ちます。葉と幹の間の物質移動に関しては、種々の研究がなされてきましたし、一方では、いろいろな幹刈り用作業機も開発されていますので、幹干し乾燥法は今や定着した技術であるといって差支えありません。

(佐藤昌良)

 


タバコはC3植物である、とはどういう意味なの

 植物は、水を分解して空気中に酸素を放出し、炭酸ガスを取り込みながら糖やでんぷんを合成しています。この仕組みは光合成と呼ばれていますが、植物は、炭酸ガスを取り込む仕組みの違いによって、C3植物とC4植物の2種類に分けられています。タバコをはじめイネ、ムギ、ホウレンソウなど農作物の多くはC3植物ですが、トウモロコシやサトウキビはC4植物に属し、メヒシバ、エノコログサなどの雑草にも多くのC4植物があります。

 C3というのは、炭素原子が3個あることを記号として表したものです。C3植物では、炭素原子1個の炭酸ガスが炭素原子5個の物質(リブロース二リン酸)と反応し、炭素原子3個の有機酸(ホスホグリセリン酸)を2つ作り出します。植物はこの有機酸をもとにして糖やでんぷんを合成しますが、空気中の炭酸ガスが炭素原子3個の有機酸として取り込まれることから、これらの植物はC3植物と呼ばれているのです。これに対して、C4植物では、炭酸ガスは炭酸イオンになり、炭素原子3個の物質(ホスホエノールピルビン酸)と結合して、炭素原子4個の有機酸(オキザロ酢酸)を作ります。このあとの仕組みはかなり複雑ですが、空気中の炭酸ガスが取り込まれてできる物質がC3植物とは異なりますので、区別して、C4植物と呼ばれているわけです。

 C3植物とC4植物を比較しますと、光合成システムとしては、C4植物のほうが効率が良いとされています。C3植物の場合は、炭酸ガスを取り込む反応と同時に光呼吸と呼ばれる逆の反応すなわち炭酸ガスを放出する反応が起こるために、折角取り込んだ炭酸ガスの3050%が再び空気中に放出されてしまいます。また、C3植物では、強い光を与えても光合成の速度には一定の限度があり、また葉の温度がある程度以上に上昇すると光合成速度がかえって低下するという現象が見られますが、C4植物の場合は、強い光と高温の条件下で光合成速度がさらに速まるという特徴があります。反面、低温にはC3植物より弱いという欠点もありますので一概には言えませんが、C4植物の優れた性質をC3植物に付与することができれば、画期的な農作物が生まれる可能性があると考えられています。

(佐藤昌良)

 


昔からの銘葉産地土壌にはどんな特色があるの

 今回は昔からの銘葉産地岩手県の大迫町について土壌の特色をみてみましょう。大迫町は北上山地のほぼ中央に位置する最高峰・早池峰(1917m)の南西麓に拡がる緑と清流の美しい町です。そして、芳醇なワインとハヤチネウスユキソウ(アルプスの名花エーデルワイスに似ている)、600年以上の伝統をもつ早池峰神楽(国の重要無形民族文化財第1号)の里としても有名です。

 北上山地は、4億年以上も昔の岩石から成る地層(古生層)とこの古生層に貫入している花崗岩類より成っています。そのため、大迫地域の土壌は、耕土が浅くて角礫に富み、保水力が小さく、緩効的に無機化する土壌窒素(地力窒素)が多い等、青森県や岩手県北部の産地土壌(黒ボク土)とはその性状が著しく異なっております。例えば、礫の多さは耕耘機のナタ爪を1年でダメにするほどですが、圃地の土壌水分量を制限する作用をしています。地力窒素供給力の高さは、南部藩時代からの伝統的な有畜農業によるもので、これは完熟した堆厩肥の山を見ると納得できます。

 乾燥施設については、茅葺きの建物や豪邸の二階部分が褐変中期〜中骨乾燥期の吊り場として利用されており、乾燥は適条件でゆっくりと進むことが窺われます

 このような産地特性をもつ大迫地域は、南部藩政の頃から銘葉産地として有名でしたが、明治以降、寒冷地農業の安定成長を図る県の施策もあって、葉たばこ生産は着実に発展しました。昭和50年代には、この地域で生産されるバーレー種・たばこは、「バーレーの香り立ち素直で、煙が柔らかく、くせが少ない」という喫味コメントに示されるように、喫味が優れていることから、上級銘柄用として特別採択されたこともありました

 そこで、盛岡試験場内の大迫土壌と盛岡土壌(黒ボク土)にタバコを栽培し、品質・喫味と関係の深い葉の成分や形質が調べられました。すると、大迫土壌で栽培した葉たばこは、香喫味と深い関連をもつヤニ(葉面脂質)の生成量が黒ボク土に比べて明らかに多いことが認められたのです(志賀、盛岡試内部資料、1983)。昔からヤニのりのよいタバコは品質がよいといわれておりますが、ヤニの生成には土壌の種類、土壌水分、窒素施用量と密接な関係のあることが知られています(緒方、鹿児島試報告 25号、1983)

 南部藩の時代からの銘葉産地としての大迫地域は、タバコを乾性的に生育させる土壌条件、300年にわたる堆厩肥の連用効果や葉たばこにやさしい乾燥施設と乾燥技術により、その名声を博し続けてきたものと思われます。 

(喜田村俊明

 


造成農地におけるたばこ栽培では、どれぐらいの耕土が流出するの

基盤整備事業によって新たに造成された農地では、豪雨時に傾斜した畑面より激しく耕土が流出します。ここでは、山口大学によって調査された国営総合農地開発事業益田地区における各種作物の土壌流出量調査結果(藤田、葉たばこ研究 103号、1987)を取り纏めて紹介することとします。

調査した造成農地は島根県益田市の丘陵地帯にあり、造成工事は、改良山成畑工法(大型の土工機械で大量の切盛土を行う)によって行われ、一区画の標準圃場を60a
(100×60m)、畑面勾配を5°として整備されました。なお、基盤の地質は洪積層、土性は砂壌土、有機物は0.3%でした

土壌流出量は裸地、たばこ畑、樹園地(ブドウ)、牧草地について1981〜85年にわたって経年的に調査されました。土壌流出量(5か年平均)は、無植栽の裸地で59.9立方b/ha/年、たばこ畑で39.9立方b/ha/年、牧草地(イネ科とマメ科の混植栽培)で5.5立方b/ha/年、ブドウ栽培地(樹間マメ科牧草)では3.6立方b/ha/ 年でした

ふつうの作物ですと、畑面からの土壌流出量は営農が始まると次第に減少し、安定期に入ると5立方b/ha/年程度となりますが、多くても許容範囲の10立方b/ha/年以内とする必要があります。このことからすると、牧草とブドウ栽培地の土壌流出量は概ね目標値となっていますが、タバコ畑では約40立方b/ha/年で、裸地の70%近くの値を示し、造成9年後までの経年変化をみても減少傾向を示しておりません。タバコ畑で土壌流出が多い原因としては、等高線に対して縦方向の畦作りとマルチ栽培によると考えられます。

 造成農地におけるタバコ作では、次のような土壌保全的営農法を実施すべきと提言しています。@畦長が50mを超える場合には、25~35m間隔で畑面に浅い草生承水路を設ける。A稲わら、カヤ等繊維質の素材を敷草として畦間に1,000kg/10a以上連用する。

 このような土壌保全的営農法は、東北産地の造成農地ではしばしば実施されており、効果をあげております。

(喜田村俊明)

 


たばこの根の張り方はどの品種でも同じなの

 たばこの根の張り方(根系分布)に関する研究は、かなり以前から行われてきました。しかし、移植期の早晩による差異などが中心で、品種間の違いに注目した研究例は少数しかありません。ここでは、18年ほど前に発表された黄色種における根系分布の品種間差異に関する研究報告から、いくつかの興味ある点を紹介したいと思います。

 たばこの根系は、移植時の旧根部により形成される基本根部と土中の茎から発生する不定根部で成り立っています。基本根部は畦の中で斜め下方向に伸長することが多く、一般に「馬乗り型」といわれる分布を示しますが、斜め下方向に向かう角度には品種による違いがあり、とくにバージニア115の場合には真下に向かう基本根が多く、逆に、ブライトエロー103号の基本根は水平に近い方向に伸長します。

 一方、不定根部の発達に関しては、やはり明らかな品種間差異が認められ、とくにF224とコーカー254には、不定根がよく発達し、地表近くの細根が多いという特徴があります。F224は後につくば1号と命名された品種ですが、この研究の時点では、F224という系統名で呼ばれていたものです。コーカー254は、一代雑種品種として耕作された山陽1号の片親であり、後に山陽一号の根系調査が実施された際にも、畦上層の細根が多いことが確認されています。

 以上のような結果から、たばこの根系分布の様相には、品種によって遺伝的な差異があることは間違いないと思われます。問題は、根系分布の違いが地上部にどのような影響を及ぼすかですが、不定根がよく発達する品種では、心止め後の窒素吸収量の低下が緩慢で、土壌由来窒素の吸収割合が高く、上位葉の乾物重増加がおそくまで続くことなどが明らかにされています。また、根系分布の違いは根の耐水性とも関連があると考えられていますので、品種の特性を的確に把握するためには、根の形態に注目することも重要なポイントの一つであるといえます。

(佐藤昌良) 

 


データの統計処理にはどんな意味があるの

 統計処理という言葉は、さまざまな数値データを数理的に解析し、妥当な結論を導くあるいは的確な推論を行う手法を指しています。基礎的な理論は、推測統計学あるいは推計学とも呼ばれ、英国のR.A.フィッシャーという人によって、農事試験の解析法をもとに確立されました。その応用範囲は実に広く、今日ではあらゆる分野の技術者、研究者によって活用されていますので、統計処理をしていないデータからの結論や推論は、信頼性が低いといわれても仕方がありません。

 いま、A品種とB品種を1畦ずつ栽培し、10アール当たりに換算した収量にある程度の差があったと仮定します。これだけでは両品種の間に本当に収量差があるとは断言できませんが、両品種が2畦ずつ栽培されていて、畦ごとに収量が調べられている場合には、両品種の収量に差があると考えてよいかどうかの検定を数理的に行うことができます。また、翌年にも同じ試験を繰り返し、計2か年のデータがある場合には、より精度の高い解析が可能になります。このタイプの解析法は一般に分散分析法と呼ばれ、例えばマルチの全期間被覆区と途中除去区の比較など、他のさまざまな試験にも応用することができます。

 たばこのある品種が10か所の畑で栽培され、それぞれの畑の収量と一定着位の葉のニコチン含量が測定された場合を考えてみましょう。収量が高い畑ではニコチン含量も高いという関係があるかどうかを調べたいのですが、はっきりした結論を得るためには、やはり統計的な検定が必要になります。

 もう一つ、多変量解析法と呼ばれる手法があります。いま、各地のたばこ産地の気象データがあり、気象の特徴とたばこの収量の関係を解析したいと仮定します。気象データには気温、雨量、日射量等複数の要素が含まれ、どれか一つだけに注目するというわけにはいきません。このような場合には、多変量解析法を適用する必要があります。多変量解析法には解析の目的に応じたまざまな解析方法が用意されていますが、統計処理の計算そのものは、パソコン用ソフトが市販されていますので、さほど困難ではありません。いずれにしても、統計処理の理論は、理論として理解するのではなく、現実の問題に即して一つ一つ応用例を体得していくことが大切です。

(佐藤昌良)

 


タバコ黄斑えそ病はどうして広範囲に発生するの 

別項で、2002年の冬は記録的な高温少雨であったことからアブラムシの発生が多いと予想され、それに伴ってタバコ黄斑えそ病(PVYT )やキュウリモザイク病(CMV)の多発が懸念されることを記しました。わが国のタバコに発生するウイルス病でアブラムシによって伝搬されるものは6種類ありますが、PVYT CMVが2大病害で、とくにPVYT1984年以降全国的に発生するようになり、現在でも最も警戒を要するウイルス病です。

かつてはCMVの発生が多く、19531954の両年大規模な総合防除試験がたばこ試験場主導で実施されたことがあります(秦野たばこ試験場報告 461960)。CMVの宿主植物は45190種以上と多く、70種以上のアブラムシによって伝搬されるので危険な存在に変わりはありませんが、タバコでの発生が以前ほどではなくなったのは被覆などアブラムシ飛来防止技術の進歩によるところが大きいと思われます。これはタバコ側の変化ですから、PVYT防除にも寄与しているはずですが、それでもなおPVY-Tの発生が目立つのは何故でしょう?

これについては2つの理由が考えられます。先ず第一にPVY-Tの発生源がジャガイモであることが挙げられます。PVY-Tに汚染したジャガイモが全国のたばこ畑の近辺に栽培されており、ウイルスとその運び屋であるアブラムシの確かな発進基地となっています。発生源のサイズと分布はCMVの場合よりはるかに大きいと見られます。

もうひとつの理由はアブラムシによる伝搬機構の違いです。CMVの場合、モモアカアブラムシのウイルス伝搬率はウイルス獲得後急速に減少し、約30分でゼロなります。一方PVY-Tでは、ウイルス獲得後約4時間は高い伝搬率が維持され、12時間後でも伝搬する場合があります。ウイルス保持時間が長ければ、一頭の保毒虫が連続して複数のタバコにウイルスをうつせますし、遠距離伝搬も可能となります。

アブラムシのウイルス伝搬方式としては両ウイルスとも「非永続伝搬」と分類されていますが、PVY-Tが属するポティウイルス(Ptyvirus)グループの伝搬にはヘルパー成分(HC)が介在するという特徴があります。HCはウイルス遺伝子の指令によって作られる蛋白で、アブラムシ伝搬には必須の成分です。アブラムシがウイルス感染植物を吸汁するとき、HCはウイルス粒子をアブラムシの口針の食物管内壁に吸着させるブリッジの役割を果たし、さらに酵素様の作用でウイルス粒子を遊離させると考えられています。このことがアブラムシのPVY-T保持時間の長さに繋がり、黄斑えそ病蔓延の一因にもなっているようです。

(久保進)

 


凍霜害に加担するものがいるの

 タバコを移植してからしばらくの間気がかりなのが凍霜害の発生です。タバコが被覆物からすっかり顔を出す時期の晩霜が特に心配です。「八十八夜の別れ霜」と言われますが、地方により、また年によってはさらに遅い時期まで発生することがあります。宮城県のホームページには、41日〜531日を「凍霜害防止対策月間」と書かれています。また、岩手県下では615日という記録的な晩霜の例もあります(葉たばこ研究1011986)。

 大陸からの移動性高気圧におおわれた快晴無風で乾燥気味の日、夜間の放射冷却現象によって地表面の温度が急激に低下して霜を結ぶことがあります。地方気象台による霜注意報の発表基準は、明け方の最低気温が4〜2℃以下と予想され場合ですが、このようなとき地表面とほとんど同じレベルに水平に展開しているタバコの最大葉表面の温度は気温(地上1.5mの温度)より34℃低くなります。降霜だけで済めば問題ありませんが、組織が凍結するまでになると、葉や成長点の枯死につながり重大です。タバコ葉は−2℃前後に曝されると凍結します(葉たばこ研究151958)。

 水の氷点を0℃と定められているのは周知のとおりですが、きれいな水を静かに冷やしていくと過冷却状態となって−25℃以下でも凍らない場合があります。それが−2℃程度の比較的高い温度で植物の葉や新芽が霜を帯び、凍結するのは植物体表面に生息する細菌の所為であることが分かってきました。ある種の細菌が作る蛋白質が核となって水の凍結を助長しているのです。このような細菌を氷核活性細菌と呼んでいます。Erwinia属、Pseudomonas属などの細菌の一部が氷核活性を示しますが、これらはどこにでもいる細菌で植物病原菌とされているものも含まれています。植物の着生細菌は晩霜が問題となる芽吹きのころ盛んに増殖し、チャやナシでは生葉重1g当たり100万個以上にもなることが知られています。

 植物体表面に生息する氷核活性細菌を減らせば凍霜害が発生する温度を下げることが出来るのではという発想からさまざまな試みがなされ、「防霜細菌」が米国で実用化されました(1992)。これは遺伝子操作によって氷核活性能をなくしたPseudomonas属菌を主体とし、高濃度の培養菌を作物に散布するとそれが拮抗的に働いて氷核活性菌を減少させ、−5〜−6℃まで凍結から免れるというものです。凍結温度が34℃も下がるというのはとても大きい意味があります。「防霜細菌」は農薬扱いの登録で、数種の果樹とジャガイモ、トマトが対象ですが、残念ながら日本では未登録で使えません。

(久保進)

 


タバコ畑に集積している塩素はどうすれば簡単に除去できるの

 土壌塩素の除去は水とともに流すのが最も容易であるとされております。塩素は、水田地帯では湛水と排水を繰り返すことにより除去できますが、畑地帯では一般に水の便が悪く、降水のみでは多くを期待できないのが実情です。特に、火山灰土は容水量が大きく、陰イオン保持力も高いため、塩素を根圏土壌から除去することは極めて難しいようです。

 そこで、鹿児島たばこ試験場では飼料作物に土壌中の塩素を吸収させて、それを圃場外へ搬出し、土壌中の塩素含量を低減できることを実証しました。

 秋まき作物の塩素吸収量は、レスクグラスが41kg/10aと最も多く、次いでエンバクの26kg/10aでした。春まき作物では、スイートソルゴーとパイオニアソルゴーが多いようですが、秋まき作物と比べると少ない結果となっています。

 跡地土壌の塩素含量はレスクグラスでは深さ120cmまで0.25mg/風乾土100g以下に減少し、レスクグラスはタバコ栽培における塩素のクリーンクロップとして効果の高いことが窺われます。

 ただし、これらの除塩作物は、刈り取り部の塩素含量が高いため、たばこ作用として堆肥化するにあたっては脱塩の必要がありますが、野積みによる脱塩は難しく、タバコ作への使用は避ける方が無難でしょう。

(喜田村俊明)

 


産地土壌には10a当たり何kgの有効養分があるの

 近頃の産地土壌では肥料と同じような働きをする有効燐酸、交換性加里が増加してきております。土壌養分含量(mg/100g)は、施肥量(kg/10a)やタバコの養分吸収量(kg/10a)と数値の単位を異にしているため、量的な関係がややわかりにくいと思います。そこで、今回は土壌分析値を10a当たりの養分量に換算する方法を簡単に述べ、さらに10a当たりの養分保持量について検討してみましょう。

  タバコ栽培における通常の土壌診断では主として耕土(0〜20cm)を対象としております。この場合、土壌の養分含量を10a当たりに換算するには、養分含量(mg/100g乾土)に耕土の厚さ(20cm)と現地土壌の仮比重を乗じて算出します。現地土壌の仮比重は、土壌の種類や圃地の履歴等によってかなり異なりますが、ふつう火山灰土で0.7、非火山灰土では1とみなして(±10%程度の誤差があります)計算します。

 その計算式を簡単化して表すと次のようになります。

養分集積量(kg/10a)=分析値(mg/100g)×層厚(20cm÷10cm)×仮比重(0.7または1.0)

  それでは、この計算式を用いて近頃の産地土壌には10a当たりどれぐらいの有効燐酸や交換性加里を保持しているか、算出してみましょう。

 表−1 有効燐酸、交換性加里分析値を耕土10a当たりに換算すると

調 査 地 域

 試料数             分析値(mg/100g)               10a当(kg/10a)

                     燐酸           加里                燐酸           加里

青森・岩手県北火山灰土地域

   41                81               69                 113             97

岩手県中南部非火山灰土地域

   34              148              104                 296           208

九州・沖縄(火山灰土が8割)

   72                33               58                   46             81

引用データ 1)松田好子他 盛岡葉技C速報No.35(1993)、2)森 和男他 葉たばこ研究   135 号(1998)

  土壌有効燐酸保持量は、東北北部の火山灰土地域では燐酸施肥量の4倍弱、非火山灰土地域で約10倍、九州・沖縄では1.5倍でした。一方、タバコの10a当たり燐酸吸収量は4kg/10a前後ですが、燐酸肥料はタバコの初期生育に支配的な役割を担っています。  

  土壌交換性加里保持量は、加里施肥量の3〜7倍程度に相当しますが、タバコの10a当たり加里吸収量はバーレー種で40kg/10a程度、黄色種で約20kg/10aであり、耕土にはかなりの加里が富化されているといえます。さらに、交換性加里は耕土より下層の根群分布領域においても、大抵の場合耕土層に匹敵するか、それを上回る保持量を示しています。

(喜田村 俊明)

 


野菜跡地土壌にはどんな問題点があるの

   野菜とタバコの輪作体系においては、野菜は多肥で栽培されるため、施用した肥料が土壌中に残存し、その後作の葉たばこに品質低下をもたらす場合がみられます。

  たばこ前作野菜の施肥実態調査(垣江 葉たばこ研究76号,1977)によれば、窒素施用量はキャベツ、ハクサイ、レタス、タマネギ、ダイコン、キュウリ、トマト等で30〜45kg/10aにも達する場合があり、窒素吸収量の1.5〜2倍弱に相当する肥料窒素が施用されています。野菜類はタバコに比べて多量の窒素を吸収しますが、施用量も多いため、跡地土壌には施用した窒素がいろいろな形態で残留するものとみられています。

  野菜跡地における無機態窒素含量は、四国の水田産地では耕土に集積しやすく、春どりレタス跡地ではタバコの施肥時に匹敵するほどの残留が認められています。また、東北や九州の火山灰土産地では、60cm以下の下層土に多量の無機態窒素が集積していることがあり、成熟期に後効きします。ナガイモ跡地では下層土が著しく膨軟なため、その傾向がより強くなるようです。

   野菜類は窒素含量が高く、その収穫物残さが土壌中に残ると窒素的肥効を表すことはよく知られています。葉菜類残さの炭素率(CN比)は概ね15以下なので、それらは容易に分解されて、多量の無機態窒素を放出します。野菜に施用された肥料窒素の一部はいったん土壌中で有機化されますが、再度無機化されて、タバコに利用されるものもあります。

   野菜跡地土壌のもう一つの大きな問題点としては、野菜用肥料には塩化加里、塩化アンモニアが配合されており、その副成分である塩素の残留があります。野菜跡地における塩素含量は概して高く、水田産地では耕土に残留していますが、九州の非火山灰土産地では20〜40cmの耕土次層に集中する場合と、20cmから80cmあるいはそれ以下まで高濃度で残留している場合とがみられます(鶴田 葉たばこ研究 89号,1982)。

  この他、野菜跡地では硝酸態窒素や塩素の残留と野菜による石灰の吸収により土壌の酸性化が促進されるおそれもあります。

  野菜跡地における残留窒素対策としては、通常20〜50%の減肥が実施されており、葉たばこの品質への影響はほとんど解消されているようです。土壌中からの塩素の溶脱は冬期間の降水量や土壌の種類によって異なりますが、冬季に降水量の少ない地域では、タバコ−野菜の輪作体系の中で確実に塩素を除去するのは難しい面もあります(土壌検定を行う必要もあるでしょう)。

(喜田村 俊明)

 


タバコの施肥法は、どうして中層条肥が一般的となったの

  タバコの施肥作業は、1960年代初頭に、歩行型トラクタで畦立て作業と同時に肥料の拡散施用を行う全量全層施肥法の開発によって著しく効率化されました。被覆栽培の普及とも相まって、この施肥法は、1965年頃には一般的となり、本畑作業の省力化に大きく貢献してきました。

  ところが、全層施肥法(マルチ栽培)は、しばらくするとそれまでの条肥追肥方式に比べて成熟期のタバコの肥料切れが早く、枯れ上がりやスタミナ不足を起こしやすい等の問題点が指摘されるようになりました。特に、夏期に乾燥しやすい瀬戸内沿岸地域におけるマルチ栽培では、開花期以後タバコの下、中位葉が未成熟のまま黄化して枯れ上がり、葉たばこの収量・品質が低下しました。この原因は、大土寄期以後の畦土壌の乾燥に伴い、無機態窒素の表層集積とタバコの発根量減少が引き起こされ、タバコの窒素吸収が抑制されることにあったのです。

   これとほぼ時を同じくして、大気中のオキシダントを主因とする生理的斑点病が近畿・四国で発生し、1969〜71年には全国的に拡大する等、葉たばこに大きな被害を及ぼしました。罹病した葉は全窒素とタンパク態窒素含量が低く、本病は前述したような肥料切れの早いタバコに発生したのです。また、本病の発生実態調査によると、本病は全層施肥法と被覆栽培に深く関わっているという結果も得られており、実際に、一部のたばこ産地では「生理的斑点病は耕耘機病」という声も囁かれていたものです。

  そこで、その当時普及していた作業体系(機械力を利用した全量基肥)を崩さないで、肥料窒素の表層集積と窒素吸収の著しい早進を防止し、タバコの根張りを下層土まで良好にするような方策について検索を行いました。その中から大きくクローズアップされたのが昔ながらの条肥で、条肥は米国ではいろいろな作物にふつうに行われていたのです。

  マルチ栽培における条肥のたばこ作に対する効果は、1971〜73年にわたり岡山たばこ試験場で、施肥位置とタバコの窒素吸収・根張り、枯れ上がりや生理的斑点病防除効果、肥料の散布法と分布位置等が集中的に検討されました。その結果、マルチ栽培では畦頂から15〜20cmの中層に肥料を分布させれば、それまで問題となっていた中,下位葉の早期色落ちや生理的斑点病の防止に有効と認められ、この施肥法は、「中層条肥」と名付けられ、産地導入されました。

(喜田村 俊明)

 


施肥窒素は土壌中でどのように移動するの

  土壌中に施用された菜種油粕や尿素は土壌微生物によって分解され、アンモニアを生成し、アンモニア態窒素は酸化されて亜硝酸態窒素になり、さらに硝酸態窒素に変化します。
  アンモニアは粘土や腐植に吸着されますが、硝酸態窒素は陰イオン交換容量の小さい土壌では吸着されず大部分は水に溶けて下層土へ移動します。タバコ土壌に施肥された窒素が土壌中でどの程度移動や流亡をするかについては、いくつかの研究調査がありますが、その結果は土壌の種類や管理状態、被覆の有無、降水量等によって異なっています。ここでは、その結果を比べてみることとします。

  施肥窒素の移動割合をマルチの有無との関連でみると、無植栽のシラス土壌で70cm以下の下層土に移動した割合は、施肥97日後でマルチ53%、無被覆72%でした。次に、土壌の種類との関連でみると、裸地条件で40cm以下の土層に移動した割合は、施肥63日後(それまでの降水量205mm)において強粘質土壌で29%、シラス土壌(砂壌土)で54%でしたが、黒ボク土(壌土)ではわずか2%に過ぎず、施肥窒素は硝酸態窒素の形態で30cmまでの土層に残留していました。その後198mmの降水量があった施肥83日後には、いずれの土壌においても施肥窒素の80%あるいはそれ以上が40cm以下に移動または流亡しました(小牟田, 葉たばこ研究52号, 1969)。

  実際にバーレー種を栽培している圃地(黒ボク土)での調査結果によると、施肥畦における肥料由来の無機態窒素(主として硝酸態窒素)は、生育時期の進行に伴ってタバコの吸収により減少しますが、20cm以下への移動は最終収穫時まで(降水量500mm弱)全く認められていません。前年施肥された窒素の残りや有機態窒素から無機化した硝酸態窒素は、春先から開花期までは深さ60〜100cmの位置に集積していますが、収穫終了時になると80cmより上位の土層では消失し、80〜100cmの土層でのみ高い値を示すようになります(喜田村ら, 土肥誌57, 1985)。

  黒ボク土で施肥窒素の下層への移動・分布について調査した結果では、施用4か月後で深さ100cmに達し、硝酸態窒素は深さ100cm前後の土層に5mg/100g以上も集積することが認められています(松沼ら,宇都宮たばこ試報告10号, 1971)。

  施肥窒素の下層土への移動・流亡は、黒ボク土が最も小さく、次いで強粘質土壌でした。
  黒ボク土や強粘質土壌の下層に集積した窒素の90%前後は硝酸態窒素で占められていますが、これらの土壌は容水量や有効水分量が高く、かつアロフェン質黒ボク土では硝酸態窒素等の陰イオン吸着能(AEC)も高いという特徴があります。

しかしながら、黒ボク土や強粘質土壌でも排水不良な圃地では、集中的な降雨があった場合、施肥窒素の急激な流亡が起こりうるので、どのような土壌でも、圃地の排水対策が重要であることはいうまでもありません。

(喜田村 俊明)

 


日本の在来種にはどんな特徴があるの−その2

 「日本の在来種にはどんな特徴があるの」という項目で、在来種には葉のヤニの成分として黄色種やバーレー種にはない成分を含むものがある、と述べました。ここでいう葉のヤニとは毛茸の先端から分泌される粘り気のある物質を指し、その化学的な組成は葉たばこの香質と関係があると考えられていますので、この面から見た在来種の特徴を補足しておきたいと思います。

 葉のヤニにはいろいろな脂質成分が含まれていますが、多量に含まれているのはCBT(センブラトリエンジオール)という物質とシス-アビエノールという物質の2種類です。しかし、シス-アビエノールは品種によって含むものと含まないものがあり、黄色種やバーレー種の場合は、世界的に見ても、シス-アビエノールを含む品種はごく少数しかありません。逆に葉巻種や各地の在来種の場合は、シス-アビエノールを含む品種のほうが多いことが判明しています。日本古来の在来種について見ますと、シス-アビノールを含む品種と含まない品種の割合はほぼ半分ずつで、地域的には、近畿以西の在来種に含むものが多く、中部以東では含まないものが多いという傾向があります。

 最近では在来種の単葉巻を喫煙できる機会はほとんどなくなりましたが、例えば国分葉や阿波葉と水府葉や松川葉を比べた場合、それらの香質にははっきりとした違いがあります。国分葉や阿波葉のヤニにはシス-アビエノールが含まれ、水府葉や松川葉のヤニにはシス-アビエノールが含まれていないのです。水府葉や松川葉でも、内容種によってはシス-アビエノールを含むものがありますが、いずれもいわゆる本系とされる内容種ではありませんので、限られた時代に、部分的に栽培されたものと思われます。したがって、東日本では、シス-アビエノールを含む内容種が淘汰され、シス-アビエノールを含まない内容種が生き延びたと考えてもよいのではないでしょうか。なお、岩手県の在来種で葉巻種として栽培された南部葉のヤニには、シス-アビエノールが含まれています。一方、九州地方を見ますと、南九州ではシス-アビエノールを含む品種がほとんどですが、北九州の上座葉、豊後葉、肥後葉のヤニにはシス-アビエノールが含まれていません。焼酎文化圏と清酒文化圏の違いかも知れませんが、たばこ伝来ルートの相違と関係があるのではないかと考えています。

(佐藤昌良)

 


土壌病害の発生と土壌酸度にはどんな関係があるの

 土壌病原菌の繁殖に及ぼす土壌酸度の影響は土質や土性によって異なり、また、土壌酸度の影響というよりも、酸度矯正剤に含まれるカルシウムの影響である場合もあるといわれますので、単純には把握できません。しかし、土壌病原菌はある範囲の土壌酸度で繁殖しやすく、その範囲を超えた土壌酸度での繁殖は著しく抑制されることも事実です。

 細菌による土壌病害である立枯病の場合は、細菌の繁殖に最適な土壌pH6.6であり、pH 6.0以下や8.0以上の土壌では細菌の繁殖が抑制されます。しかし、外国の文献に記載された馬鈴薯での調査例等では、pH 6.0以下の酸性土壌で激しく発病する場合もあると報告されています。

 糸状菌による土壌病害である疫病の場合は、菌の生育に好適なpHの範囲が4.58.0とかなり広いことが特徴です。ただし、土壌酸度が中性(pH 7.0)に近いほうが菌の濃度が高まりやすく、酸性の強い土壌では菌の濃度が高くなりにくいとされています。

 同じく糸状菌による土壌病害である黒根病の場合は、発生に最適なpH6.47.0であり、pH 5.5以下および8.2以上の土壌では発生が少なくなります。

 以上、たばこの代表的な3つの土壌病害と土壌酸度の関係について述べましたが、土壌病害の発生は土壌酸度のみによって左右されるわけではありませんから、上記の関係は、あくまでも基礎的な知識の一つとして参考にすべきものだと思います。上記の例は、いずれも酸性の強い土壌で病気が出にくいことを示していますが、酸性土壌には別の面での大きな弊害がありますから、病害防除を目的として土壌を強酸性に保つという考え方は一般にはあり得ないことを強調しておきます。ただし、たばこ作の土壌改良基準値とされるpH 5.56.5という値は、立枯病菌や黒根病菌の繁殖に最適なpH値に比較すると、やや酸性側にあるといえます。また、石灰を一時に多量投入した場合には、病原菌の密度が高まるおそれが多分にあることを知っておきましょう。

(佐藤昌良)

 


アブラムシの飛来予測はできるの

 2002年のたばこ作シーズンが始まりかけています。この冬は記録的な暖冬少雨の年でした(下図は気象庁報道発表資料による)。このような年にはアブラムシの発生が多く、また飛来の時期も例年より早まりそうで、黄斑えそ病やキュウリモザイク病の多発が懸念されます。これは全く感覚的な予想ですが、数式を用いて飛来数や飛来時期が予測できるという鈴木等の報告(葉たばこ研究 82,104,110)があります。

 前岡山たばこ試験場の調査データから求められた数式は次の通りです。有翅アブラムシの飛来数()

    Y=(9.235+1.895X10.084X2)²      (4月1〜20日の飛来数)

ここで、X1は2月と3月の月平均最低気温の和、X2は同期間内の総降水量です。キュウリモザイク病の発生率は飛来アブラムシ数に比例するので、上の式のX1とX2を用いて発生率(Y)も次の式で推定できます。 

Y=(2.017+0.378X10.015X2)²

 タバコにおけるアブラムシ伝染ウイルス病の初期感染はアブラムシの春の飛来急増期に起こります。前盛岡たばこ試験場の調査データでは、その飛来急増期の予測日は、厳寒期を過ぎたとき(盛岡では31日)から日平均気温(0℃以下は除く)を積算して760℃に達する日となるということです(誤差は3日以内)。気温の積算を始める日は地方によって異なるので、積算開始日を決めるにはデータの蓄積が或る程度必要ですが、鹿児島で2月上旬、岡山で2月中旬、栃木・宮城では3月上旬となるとしています。

 飛来急増期の予測日については、葉たばこ研究所のデータから次の予察式も提示されています。

    P=82.2+N−√(9.7S556.9)

 ここで、Nは11日から予測を行う日までの経過日数、S11日を起算日とし、予測を行う日までの日平均気温または9時気温(0℃以下は除く)の積算値、Pは1月1日からの経過日数として表される飛来急増予測日です。この予察式はアブラムシの卵越冬の多い東日本では適合性が高いのですが、胎生雌虫でも越冬する西日本では予測よりもやや早く飛来急増期を迎えることが多いようです。今年のような暖冬少雨の年には胎生雌虫の越冬は例年より多く、飛来も早いと考えられ要注意です。

 ジャガイモ畑なども含めた総合防除を行う場合、薬剤散布日の決定はトラップを用いた有翅アブラムシの飛来調査によるのがベストですが、その大まかな予定を立てる上で上記の方式は活用する価値があると考えられます。

     

 (久保進)

 


たばこ畑の害虫はどこからやって来るの

 たばこ畑では、移植直後から収穫終了時まで、さまざまな害虫が見られ、ときには大被害を及ぼすこともあります。アブラムシ類を除くその他の害虫について見ますと、いずれも幼虫または蛹(さなぎ)として土中で越冬し、翌年の春以降にたばこを食害します。越冬した幼虫そのものがたばこを食害する場合と、越冬した幼虫や蛹がいったん成虫となり、成虫の産卵によって生まれた幼虫がたばこを食害する場合とがありますが、いずれにしても、もとになる害虫は、たばこ畑あるいはその近隣の土中に潜んでいます。

 越冬幼虫がたばこを食害するものとしては、ハリガネムシやネキリムシがあり、植付け直後のたばこに被害を与えます。ハリガネムシは幼虫期間が3年またはそれ以上と長く、冬と夏は土中の深いところに、春と秋には浅いところに生息する習性がありますので、水平移動よりも垂直移動という感じですが、ネキリムシは地表を這いまわり、となりの畑からもやって来ます。ただし、寒冷地では、越冬したネキリムシはいったん成虫(カブラヤガなどのヤガ類)となって周辺の雑草などに産卵し、孵化した幼虫がたばこ畑に移動して来るといわれています。

 ヨトウムシ、タバコアオムシ、ジャガイモガの場合は、土中の蛹として越冬し、春になると成虫となってたばこなどに産卵します。卵から孵化した幼虫が葉を食害しますが、タバコアオムシでは、成虫になる時期がやや遅く、たばこへの被害は主として発蕾期以降の頂葉あるいは花蕾部に見られます。また、ジャガイモガはナス科植物にしかつきません。

 以上のように、害虫の生態はさまざまですが、それらの発生源は近隣畑を含めた土壌にあります。とくに秋野菜の畑や雑草の繁茂したところは害虫の越冬場所になりやすいので、秋野菜への薬剤散布のほか、秋冬期の耕うんあるいは周辺の除草を行って、越冬する蛹や幼虫の密度を減らすことが大切です。

(佐藤昌良)

 


染色体って何のことなの

生物の染色体数は、人間では46本、イネでは24本、たばこでは48本というように、生物種ごとに決まっていて、原則として個人や品種による違いはありません。染色体は、DNA(デオキシリボ核酸)という物質と構造を安定させるためのヒストンという蛋白質で構成され、DNAには、生命活動を維持するためのさまざまな遺伝情報が書き込まれています。

 動物や植物の細胞を顕微鏡で見ると、細胞の中に丸い球のようなものがあります。これは細胞核と呼ばれ、DNAの大部分はこの中に収納されています。DNAは糸状の構造を持つ物質で、幅は100万分の2ミリほどしかありませんが、長さは恐ろしく長く、たばこの細胞核1個に含まれるDNAの長さを全部足すと、3メートルを超えることがわかっています。ただし、たばこのDNAは48本に分割されていて、平均の長さ6センチ程度のDNA48本が一つの細胞核の中に収納されています。

さて、染色体についてですが、染色体とは特殊な試薬でDNAが赤色や赤紫色に染色されたものを指します。しかし、普通の細胞を染色しても、染色体を見ることはできません。細胞の中には染色された細胞核が見えるだけで、48本のDNAを識別することは不可能です。染色体を見て、数えることができるのは、細胞分裂を行っている細胞を観察した場合に限られます。植物でいえば、根の先端部や茎の先端にある成長点で細胞分裂が行われていますが、細胞が分裂するときには、細胞核の膜が消失し、DNAが剥き出しの状態になります。このときDNAは、蛇がとぐろを巻くようにして太く短くなり、顕微鏡で数えることができるようになります。ただし、細胞分裂後にできる二つの細胞には、それぞれ48本のDNAが伝達されなければなりませんので、分裂前の細胞では、DNAの複製という作業が行われています。ですから、顕微鏡で観察される1本の染色体は、実は同じDNAを持つ2本の染色体(染色分体)が張り付いたもので、分裂後の二つの細胞に1本ずつ分配される仕組みになっています。

以上のように、たばこが48本の染色体を持つのは、DNAが48本に分割されているからです。おしべの花粉細胞やめしべの卵細胞が作られるときには、特殊な細胞分裂の仕方をして、24本のDNAしか伝達されませんが、種子ができるときには、再び両方のDNAが合体しますので、また48本のDNAを持つ子孫ができるのです。(下の写真は筆者が撮影した大麦の染色体です。たばこは染色体数が多いので、染色体が14本しかない大麦の例を掲載しました。左は細胞分裂中期、右は細胞分裂後期の様子を示しています。)

(佐藤昌良)

 


立枯病の発病抑止土壌はあるの

土壌伝染病菌の活動は土壌条件の影響を大きく受けます。その具体例として発病抑止土壌と呼ばれているものを挙げることができます。発病抑止土壌は現象面から3つのタイプに分けられ、@病原菌が定着できない土壌、A定着できても発病に至らない土壌、Bいったん発生したものが連作を重ねるとやがて発生しなくなる土壌です。Bの場合は発病衰退土壌とも呼ばれ、途中で別な作物を入れたり土壌消毒をすると抑止作用はなくなります。

わが国のたばこ産地にも立枯病の発病抑止土壌が存在するのでしょうか?JT葉たばこ研究所の古賀らは全国のたばこ産地から立枯病の発生がないかあるいは少ないたばこ畑土壌を集めて検定を試みたところ、216点中17点が発病抑止土壌と考えられ、そのうち9点(火山灰土壌4点、非火山灰土壌5点)は顕著な発病抑止性を示すことが明らかになりました(葉たばこ研究134,1997)。

発病抑止土壌の存在は特定の作物と病害との間で認められることで、多くの報告例があります。フザリウム菌やリゾクトニア菌などの糸状菌、線虫などに対する発病抑止土壌も知られています。発病抑止の機構がすべて解明されているわけではありませんが、生物的要因による場合が多いようです。放線菌などの土壌微生物が産生する抗生物質や分解酵素、栄養源の競合などが病原菌に対して阻害的に働くことによります。上記9点の発病抑止土壌のほとんどは熱処理をすると阻止作用がなくなることから、発病阻止は生物的要因によると考えられました。ところが、石川県羽咋郡の土壌(砂土)では、熱処理をしても抑止作用が残ることや土壌中での立枯病菌の減衰が特別速いことなどから、この場合は土壌の理化学性も発病抑止に関与していると見られました。確かにこの地域の土壌は高pH,高Ca含量の特性を示しました。また、土壌のCa含量やpHを変えて立枯病の発病率を見た試験でも、土壌中の交換性Ca含量あるいは土壌pHと発病率との間に高い負の相関が認められました(古賀:土壌伝染病談話会レポート19,1998)。抑止土壌は、生物的要因にしろ理化学的要因にしろ、第一義的には病原菌に対して影響を及ぼしますが、生育促進や抵抗性誘導など作物側にも作用していることを示す報告もあります。

発病抑止土壌の存在は土壌病害防除の観点から重要な知見です。いわゆる「土づくり」が土壌病害の耕種的防除あるいは生態的防除にも通じることを示唆していると言えます。

(久保進)

 


立枯病菌の遺伝子はどこまでわかってきたの

 タバコ立枯病の病原菌であるRalstonia solanacearum(旧名Pseudomonas solanacearum )は世界中に広く分布し、50200種以上の植物に感染する極めて多犯性の病原体のひとつです。この病原体の

 トマト株(トマトでの病名は立枯病でなく青枯病と呼ばれる)のDNAの全塩基配列がフランス国立農業研究所の研究グループによってこの程明らかにされました(Nature 415,2002)。

 本菌は大、小2つの環状DNAを持ち、大きい方は3,716,413塩基対、小さい方は2,094,509塩基対から成り、前者が染色体DNA、後者がメガプラスミド(細菌本来の染色体とは独立した遺伝体である巨大プラスミド)DNAと見られます。この2つのDNAは合計5,129個の蛋白質を作れる配列を備えています。R. solanacearum がつくる蛋白質の機能の解明はこれからですが、これまでにわかたことだけからでも本菌の宿主範囲の広さが理解できるようです。

 病原性にかかわる情報の主体はプラスミド上にありました。プラスミドDNAは鞭毛や線毛の情報、植物組織への付着ないし接着、細胞壁の分解、植物の感染抵抗性の抑制、菌体外多糖の合成などに関与する蛋白質の情報を持っています。外部細胞との接着に関与する蛋白質の種類が多いことが特徴的で、このことが寄主範囲の広さに関連している可能性があります。従来、本菌は植物根の傷口から侵入して通導組織で増殖すると言われてきましたが、感染には線毛などが重要な役割を果たし、能動的に侵入、感染できることも示唆しています。

 グラム陰性細菌で知られているタイプV分泌システムと呼ばれる機構が本菌にも存在します。これは病原性発現に必須の機構で、十数個の蛋白分子で構成される装置からなり、この装置を通じて植物の正常な代謝を乱す酵素や毒素を植物細胞内に注入するものです。本菌の場合、注入される酵素や毒素の類は40種類あるいはそれ以上と際立って多く、このことも寄生性の広さに繋がっていると見られています。

 シロイヌナズナというアブラナ科の実験植物がありますが、この植物の全DNA配列が2000年末に決定されました。フランスの研究グループが扱っているR. solanacearum のトマト株はシロイヌナズナにも感染するということですから、今後この組み合わせで宿主―寄生者の関係が分子レベルで明らかにされることでしょう。抵抗性品種の育成や防除薬剤の開発も従来とは違った新しい局面を迎えたといえます。その成果がたばこ病害の防除にも反映される日が近いことを期待したいものです。

(久保進)

 


土壌消毒をした畑ではなぜ減肥が必要なの

 土壌消毒をした畑では、施肥量を少なくとも10%程度は減らすことが必要であるとされています。その理由の一つは、土壌消毒剤には窒素が含まれ、肥料的効果があると考えられるからです。代表的な土壌消毒剤であるクロルピクリンには8.5%、バスアミドには17.3%の窒素が含まれ、土壌中で分解されて、前者は亜硝酸を遊離し、後者はメチル尿素を経てアンモニアまたは硝酸に変化しますので、いずれもたばこが利用できる形態となります。これらの窒素がどの程度たばこに吸収されるかは未解明ですが、仮に肥料の窒素と同じ程度に利用されるとすると、とくに使用薬量が多い土壌全面処理の場合は、たばこの生育と成熟に無視できない程の供給量になります。バスアミド微粒剤(有効成分98%)を10アール当たり20kg施用すると、窒素供給量はおよそ3.4kgになりますから、その影響はかなり大きいといわなければなりません。

  土壌消毒の影響については、もう一つ、土壌中の微生物に与える影響と有機物の無機化促進あるいは硝酸化成作用の遅延といった観点から考えてみる必要があります。たばこが吸収する窒素は、およそ半分が肥料として与えた窒素であり、残りの半分は土壌にもともと存在する窒素であることがわかっています。ただし、肥料にしても土壌にしても、窒素成分の主体は有機態窒素ですから、それらがたばこに利用されるためには、有機態窒素が無機態窒素に変化する過程が必要です。この過程では、土壌中の細菌が重要な役割を担っており、有機態窒素からまずアンモニアが生成され、さらに亜硝酸菌や硝酸菌の働きによって亜硝酸や硝酸が生成されます。

こうした過程に対する土壌消毒の影響を考えてみましょう。土壌消毒の直後には土壌中の細菌類は著しく減少しますが、20日程度を経過すると、病原菌以外の細菌類は再び増加しはじめ、やがて消毒前よりも数倍のレベルにまで達します。その結果、有機態窒素の無機化がかえって促進され、消毒を行わない場合よりも多くの無機態窒素が生成されることがありますが、有機態窒素からアンモニアを生成する細菌の回復に比べ、アンモニアを亜硝酸や硝酸に変える細菌の回復が遅れるため、一般に、硝酸化成作用の遅延という現象が同時に見られます。たばこは硝酸を好んで吸収しますので、窒素吸収のピークが後ろにずれる可能性があり、土壌消毒による晩作化の危険性が指摘されてきました。こうしたことから、土壌消毒を行う畑では、適切な減肥がどうしても必要であるといえるのです。

(佐藤昌良)

 


極早生タイプの品種はたばこにもあるの

 極早生と呼ばれる品種はいろいろな作物で見られ、普通の品種よりも著しく開花が早く、草型も小型であるために、特殊な意味合いで珍重されています。たばこは葉を収穫する作物ですから、極早生という性質はまったく無用であると思われるかも知れませんが、実際に栽培された品種の中にも、極早生といえるような品種が存在します。

これまでに調査された限りでは、Petit Havanaという品種が一番早く開花する品種ではないでしょうか。Petitはフランス語のプチすなわち小さいことを意味しています。この品種は、カナダのケベック州で、パイプタバコの原料として栽培されていました。たばこの実用的な品種は移植後だいたい60日から80日程度で開花するものが多いのですが、Petit Havanaの場合は、移植後40日足らずで開花し、全葉数も17枚程度しかありません。したがって、地上葉数は9枚前後ということになります。

 Petit Havana以外では、実験として人為的に誘発された突然変異系統の中に、極端な早生型の系統が見出されています。この系統は、ヒックス2号という品種から得られたもので、1918-1と名付けられています。夏の実験でも冬の実験でも、1918-1の全葉数はPetit Havanaよりも3〜4枚少ないことが確かめられており、冬の温室実験では、全葉数13枚で開花したと報告されています。世界中には実にさまざまなたばこの品種がありますので断定はできませんが、もしかしたら、これがたばこの中で一番早生の系統であるといえるかも知れません。

(佐藤昌良)

               

          畑で開花した極早生の突然変異個体(1918-1

 


たばこへの菜種油粕の効果ってどんなこと

 我が国のタバコ栽培やたばこ用肥料の発展過程を語るとき、江戸時代から現在に至るまで菜種油粕を抜きにして語ることはできないといっても過言ではありません。

 菜種油粕はたばこ用肥料として卓効のあることが300年以上の長きにわたって語り伝えられています。葉たばこ専売制の実施(1898)以後、各地の試験場で各種の肥料試験が行われ、油粕類の優越性が確認されました。それと相まって菜種油粕を主体とするたばこ耕作法も全国に普及し、在来種の品質の向上を促進したのです。なお、たばこの燃焼性向上のため草木灰の増施が奨励されたのもこの頃からです。

 それでは、菜種油粕はたばこ用肥料としてどういう点で優れているのでしょうか?
 その理由は、塚田・西山・石戸谷氏による「土壌中での油粕の分解速度とたばこの吸収、生育との間にはきわめて調和的な関連があり、日本のごとき気象条件下では降雨その他の気象条件に影響されることが少ない点」という研究結果によく表現されています(1943)。

 戦後の油粕不足対策のため、各種の無機質窒素肥料の肥効について油粕と比較した結果をみますと、葉たばこの品質は油粕が安定して良く、次いで硝酸系肥料、尿素がよいようで、アンモニア系肥料では葉たばこの窒素吸収が多い傾向にあるようです。つぎに、これらの肥料の分解過程をみると、尿素は菜種油粕や棉実粕のそれによく類似しています。

  1950〜60年にかけて、尿素の特性を生かし、理想的な三要素組成をもつ尿素化成、つづいて燐安、尿素、重過石、重焼燐、硫加等の配合によってより高濃度化を目指した高度化成肥料が相次いで開発され、施用窒素の半量程度を油粕と併用する方式で産地導入されました。1970年代になると、油粕は併用方式から次第に粒状化成の中へ取り込まれるようになり、油粕を35〜40%程度含む有機質入り化成肥料として現在に至っています。

 野菜や果菜栽培における油粕等有機質肥料の効果としては、@全窒素およびタンパク質含量の低下、A糖含量の増加、B歯触り等物性の向上、CビタミンCやクロロフィル等の減少の抑制、D保存性の増大があげられ、有機質肥料は「食品の質」を向上させています。

  これまで、葉たばこ生産用新器材試験の中で、例えば乾燥菌体肥料のように有用なリサイクル資材が実用化されてきましたが、今後も油粕と同等または幾分緩効的肥効を示し、環境保全型農業に資するような新有機質資材の開発が期待されます。

(喜田村 俊明)

 


たばこ圃地の通気や排水が悪いとどうしていけないの

 タバコ栽培に適した圃地は、「その土性が砂壌土〜壌土で、通気性と排水性がよく、適度の養水分保持力をもち、日当たりと風通しのよい緩傾斜地」という昔からのたばこ教本の言葉によく表現されているところです。
  このことを土壌学的にみると、土がやわらかで、根圏への空気の通りならびに地表排水と地下排水(地中の過剰水の排除)に優れ、常に圃地を適湿として根を広範囲に分布させ、養水分をよく利用できるような圃地がタバコ作に好ましいということになります。

  土壌は、土壌の固体部分(固相という)と水分・空気を保持している土壌粒子間の隙間(孔隙という)とで構成されています。土壌の固相の占める割合が基盤整備地や開拓地等でみられるように55%以上の値を示すようになると、その通気性や排水性は著しく低下し、タバコ根群の伸長が著しく阻害されて生育不振の原因とさえなってしまいます。

  圃地の排水が悪いと、土壌の孔隙から空気が追い出されます。土壌の孔隙の70%以上も水でふさがれて過湿の状態になると、根に呼吸障害が起こり、根の組織の壊死や木化を引き起こします。タバコにとっての最適な土壌水分は土壌孔隙の60%前後であり、80%では根量が減少し、葉の枯れ上がりが多くなって収量の減少をもたらします。

   さらに、過湿によって土壌が酸素不足となると、二価のマンガンと鉄、硫化水素、炭酸ガス等の有害物質を生じ、根の障害や根腐れを引き起こします。特に、基盤整備地、水田転換畑、干拓地では土壌の酸性化とも相まってマンガンと鉄の可溶化が起こり、両者の過剰吸収による葉たばこのU型グレー葉が発生しやすくなることも知られています。

  以上のように、土壌環境の良否は作物根の発育や伸長だけでなく、葉たばこの収量、品質とも非常に強い関係をもっております。根群の十分な活動のためには、土壌が柔らかく、適水分で、しかも一定の空気率(土壌全容積の20〜25%)が必要です。
   そこで、タバコの収穫終了後にタバコ畦の断面を掘り下げて、土壌断面を調べられてはいかがでしょうか。畦とその下の断面が指で押せるほど柔らかく、心土にも健全な根が伸長分布していればOKです。そうでない場合には、@深耕、A排水設備(弾丸暗渠、排水溝、傾斜)、B堆肥の増施等圃地の土壌改良を考える必要もありましょう。

(喜田村 俊明)

 


世界の土壌はいま、そして日本では(その3)


 「たばこにやさしい土作り」を目指すタバコ専用「土壌診断システム」が1992年に実用化されました。このシステムの活用により、北は東北の青森、岩手から南は九州、沖縄まで多くの産地土壌の診断が行われました。そこで今回は、1993年以降のデータに基づき、我が国のたばこ産地土壌の地力は近頃どうなっているか、それ以前のデータと対比しながら検証してみましょう。

 pHは、東北地方においては、80年代初頭から日本海側と福島県内陸部では強酸性のまま推移し、宮城以北の太平洋側では93年には微酸性域(6<)に上昇してきました。九州・沖縄では90年代には6.3以上で安定的に経過していますが、関東北部、東海および四国(高知)では半数前後の圃地で改良目標値5.5を下回っています。

 有効燐酸は、東北では80年代初頭には黒ボク土で著しく不足していましたが、90年代には全域で土壌改良目標値の上限を超えています。九州・沖縄、四国(高知)では90年代には漸増傾向にあって、一部地域を除き土壌改良目標値の範囲内にあります。

 交換性加里は、東北では90年代になるといずれの地域でも著しく増加し、土壌改良目標値で過剰域に入っています。九州・沖縄、四国(高知)では、90年代には全体に増加傾向で推移し、過剰域あるいはそれに近い範囲に入ってきた地域も多くみられます。
 交換性石灰は、pH値の高低により明らかな過不足がみられます。
 交換性苦土は、地域による含量差が少なく、一部地域を除き十分に富加されています。

地力窒素の指標である無機化窒素は、東北では80年以降各地域とも5〜7mg/100gの高い状態で維持され、九州・沖縄では改良目標値の4mg/100gをかなり下回っています。

 我が国のたばこ産地土壌で、この10〜20年間に最も富加された成分としては、有効燐酸と交換性加里があげられます。特に、バーレー種産地では黄色種産地に比べて施肥量の多いことから、有効燐酸や交換性加里が集積しやすいといえます。これらの成分の過剰施用を持続すれば、副成分の硫酸根の集積を招き、交換性アルミニウムを多量に含む土壌では、たばこ作りに好ましくない土壌の酸性化を加速するおそれが十分にあります。また、安価なたばこ作りを推進するためにも余分な肥料の施用は避ける必要があります。燐酸と加里の必要量は土壌中に十分に貯金されているのです。

(喜田村俊明)

 



タバコはどんな養分が好きなの

 タバコの生育に必須で肥料として施用される養分には、窒素、燐酸、加里、石灰、苦土、イオウ(副成分として施用される)があります。

 目標収量における10a当たり養分吸収量は、「葉たばこ耕作法」(日本たばこ1991)によれば、バーレー種では窒素15.8kg、燐酸3.7kg、加里46.0kg、石灰15.9kg、苦土2.4kgであり、黄色種ではそれぞれ7.3〜8.4kg、3.0〜4.7kg、17.6〜21.4kg、6.3~11.6kg、2.4〜3.7kgとなっております。また、イオウの吸収量は、バーレー種で2.5kg、黄色種で2kg程度でした。

 以上の中で最も多く吸収されるのは加里で、窒素と石灰がこれに次ぎ、燐酸と苦土は少なく、養分によって吸収量に大きな違いがみられるとともに、品種や内容種によっても著しく異なっています。

 次に、タバコの品質や喫味にとって非常に困る成分で土壌中での利用率が極めて高い成分があります。それは堆厩肥、土壌消毒剤、他作物用肥料、灌漑水等に由来する塩素です。10a当たり塩素吸収量は、バーレー種では少ない場合に3kg、多い場合には22kgにも達し、土壌中の塩素は60〜100%吸収され、塩素はに加里に次いで吸収量の多い成分になりえます。陰イオンである塩素の吸収が促進されますと、植物体内での陰イオンと陽イオンとの量的比率の平衡(両者はほぼ1:1となる)を保つために、陽イオンである加里の吸収はさらに増加することもわかっております。

 養分は、供給が豊富であればあるほど余分に吸収され、それに伴って生育収量も増大しますが、さらに吸収量が増えても収量の増加に役立たなくなる吸収を「ぜいたく吸収」といい、特に加里や燐酸でこの「ぜいたく吸収」が起こりやすくなります。また、窒素の場合、必要以上の吸収は品質・喫味の低下等の過剰吸収の弊害が出やすくなり、これはぜいたく吸収とはいいません。

 タバコの好きな養分を、多量に吸収しうる養分に置き換えて、そのトップ3を選ぶと、次のようになります。第1位は加里、第2位は塩素、第3位は窒素 です。

(喜田村俊明)

 


たばこの内容種って何を意味するの

 日本国内で実際に栽培されているたばこの品種あるいはかつて栽培されたことのある品種については、単に品種というかわりに、内容種という言葉が使われることがあります。内容種はすなわち品種であるといってもよいのですが、ある品種を内容種といった場合には、複数の品種から成る一つのグループがあり、グループ内の個々の品種すなわち内容種がある程度の遺伝的な近縁性をもち、製造用途上もまとめて扱うことができるということを表しています。このグループのことを種類といい、種類名のあとに括弧をつけ、その中に内容種を表す名称を記載します。

 具体的な例でいいますと、コーカー319やバージニア115の場合は、グループと見なせる栽培品種がほかにありませんので、括弧のない名称が使われます。しかし、エムシーやブライト・エローについては、エムシー1号あるいはブライト・エロー4号と名付けられた品種がエムシー(1号)あるいはブライト・エロー(4号)と表示されることがあります。この場合は、エムシーあるいはブライト・エローという種類に属する品種がほかにもあり、それぞれの種類が内容種のグループと見なせることを表しています。ちなみに、エムシーにはエムシー(101号)という内容種があり、ブライト・エローにはブライト・エロー(2号)という内容種があります。

 ところで、日本の在来種を見ますと、現在保存されている品種の多くが括弧つきの名称をもち、括弧のつかない品種名はほとんどありません。江戸時代には、括弧つきという名称はありませんので、この事実は、明治以降、在来種を整理する上で、種類名と内容種名をつけるという方法が広く使われたことを示しています。一例をあげますと、徳島県では明治32年にたばこの公示種名が阿波葉に統一されましたが、実際には、ちしゃ葉、千枚葉など違った名前の品種がいくつも栽培されていました。ちしゃ葉と千枚葉は似ていますが、違いもありますので、同じ品種であるとはいえません。それらは内容種として整理され、現在では、阿波(ちしゃ)、阿波(千枚)として、それぞれの種子が保存されています。

 以上、内容種の意味について述べましたが、同じ種類でも、内容種によって特性がまったく異なる場合もときには見られます。病気に対する抵抗性や重要な化学成分が異なることがありますので、とくに研究に携わる方々はその点に留意してください。

(佐藤昌良)

 


カリウムは植物体内でどんな働きをしているの

 窒素、リン酸、加里(カリウム)は肥料の3要素といわれ、N、P、Kの3元素は、いずれも植物の生育には無くてはならないものであるとされています。たばこはとくにカリウムを好む植物であり、その量が不足すると、さまざまな障害が現れてきます。カリウムは、植物の体内でどんな働きをしているのでしょうか。

 はじめに、窒素やリン酸とカリウムの違いについて考えてみましょう。窒素はたんぱく質の構成成分であり、リン酸は核酸などの構成成分です。たんぱく質や核酸は、細胞の水に溶けない部分すなわち不溶性の部分を構成していますので、窒素やリン酸がなければ、植物の細胞はその数を増やすことができません。したがって、植物が生長することも不可能になります。しかし、カリウムは、窒素やリン酸とは異なり、植物体の不溶性部分を構成する成分ではありません。ほとんど全部が水溶性であって、無機塩あるいは有機酸塩として存在すると考えられています。それにもかかわらず、カリウムが植物にとって必要であるという理由は何でしょうか。

 カリウムは植物体のあらゆる部分に存在しますが、とくに細胞分裂がさかんに行われている部分や炭水化物の合成あるいは分解が行われている部分に多く集まっています。このことから、カリウムは、たんぱく質や炭水化物の合成に際して触媒として働き、カリウムが不足すると、たんぱく質の合成などがスムースに行われなくなると考えられているのです。実際に、カリウムの不足した植物の組織では、たんぱく質になるべき窒素成分がアンモニアのような形態で残り、そのために、組織の一部が死ぬという現象が観察されます。

 たばこがカリウムを好む植物であるということはよく知られていますが、その役割についてはあまり知られていませんので、参考にしていただければと思います。

(佐藤昌良)

 


IPMとはどういうことなの 

作物の病害虫防除に関する記述で“IPM”という用語に接することがありますが、IPMとはどういうことでしょうか? IPMとは“Integrated Pest Management の頭文字をとったもので、「総合的病害虫管理」とか単に「総合防除」あるいは「統合防除」と称されてもいます。IPMの概念は、病害虫防除において、あらゆる適切な防除手段をうまく組み合わせ、被害を経済的許容水準以下に抑える管理システムということです。防除手段のうち、農薬を使用する場面では使用者の安全や作物残留と自然生態系の保全ということに特に配慮がなされます。

IPM1950年代に Integrated Control”として米国で提唱された害虫防除の考え方が下敷きとなり、その後種々な技術やコンセプトが付加され、1970年以降は”Control”に変わって”Management”が定着しました。FAO(国連食糧農業機関)は途上国支援の一環として IPMプログラムを実施し、南アジア12カ国の米作地帯で大きな成果を上げています。このプログラムでは、ほ場を教室として農家にIPMの実際を体得してもらうというもので、1990年以降200万を越す農家が一連のコースを卒業したということです。その成果をもとに、同様なプログラムがアフリカ、中近東、中南米の諸国でも実施されつつあります。

わが国のたばこ作では、1950年代にキュウリモザイク病や野火病の総合防除試験が実施されて成果を上げましたが、この場合の総合防除は農薬とその他の防除手段を単に組み合わせて広域に一斉防除を行うというものでした。1970年代にはIPMの考え方に立って、立枯病、ヨトウムシなどの防除の体系化が図られました。それらは産地ごとに設定されている防除暦などに反映されています。なお、カレンダーどおりに薬剤散布をするなどというのはIPMの考え方に反するもので、状況に応じた判断がきわめて重要となります。IT時代にあっては、インターネットなどを活用して病害虫の診断や発生予察など防除の決め手となる情報がタイムリーに得られるというようになることが望まれます。

FAOが当初IPMを採り上げた狙いのひとつは、農薬による健康被害低減だったと思われますが、持続可能な農業へというのも大きな流れとなってきています。農水省も平成11年に「食糧・農業・農村基本法」を新たに制定し、「農業の自然循環機能が維持増進されることにより、その持続的な発展が図られなければならない」としています。それに相応しい発想や新技術の開発、普及が一層求められるところです。

(久保進)

 


生物農薬にはどんなものがあるの

 生物農薬と一般に呼ばれているものには、狭義には微生物や天敵昆虫などの生物そのもの、また広義には生物由来の殺菌、殺虫あるいは忌避効果のある成分を主剤とするものや害虫のフェロモン剤などがあります。生物農薬の利点として、@選択性が高く自然生態系への悪影響が少ない、A安全性が高く、環境負荷が低い、B抵抗性を誘発する可能性が低いなどが挙げられます。反面、@化学農薬に比べると切れ味が良くない、A天候など環境条件によって効果が振れやすい、B長期保存に難があるなどの問題点も指摘されています。

  わが国では現在約50種類の生物農薬が登録されています。これらのうち、たばこ用として登録されているのは、拮抗菌剤(トリコデルマ)、線虫捕食菌剤(ネマヒトン)およびBT剤(トアローCT、デルフィン)の3種類です。トリコデルマはタバコ白絹病菌に拮抗作用を示す糸状菌Trichoderma lignorum の胞子を製剤化したもので、「トリコデルマ粉剤」として1954年に元岡山たばこ試験場で開発された日本最初の微生物農薬です。ネマヒトンは線虫捕食菌Monacrosporium phymatophagum胞子の製剤で、たばこを加害するサツマイモネコブセンチュウの防除剤です。 

 タバコアオムシとヨトウムシ用のBT剤は、細菌Bacillus thuringiensis の死菌(トアローCT)あるいは生菌(デルフィン)が主剤です。この細菌はカイコ卒倒病の病原体として1901年に日本で初めて発見されたもので、土壌周辺に普通に生息する桿菌です。菌体内に産生蓄積される結晶性の蛋白質が殺虫作用を示すことに着目し、欧米では1930年代から野菜や果樹の害虫防除剤として使用されてきましたが、日本での農薬登録は1981年です。生物農薬としては世界的に最も多用されており、日本でも現在約20種類が市販されています。BT剤に含まれる殺虫性蛋白質は摂食した昆虫の中腸の高アルカリ性条件下で分解されて始めて毒性を発揮します。したがって、哺乳類には無毒で、鳥類、魚介類、ミツバチなどへの影響も少ないとされています。ついでながら、米国ではBT菌の殺虫性蛋白質の遺伝子を組み込んだ作物(トウモロコシ、ダイズ、ジャガイモなど)も実用化されています。

  世界の農薬市場での生物農薬のシェアはまだ1%程度ですが、「総合的病害虫管理」(IPM)に相応しい農薬ということから、フェロモン剤や昆虫成長制御剤(IGR)などとともに今後重要な防除資材となることが期待されます。

(久保進)

 


アブラムシの薬剤抵抗性(その1)  

 たばこの重要害虫であるアブラムシを防ぐためさまざまな手段が講じられていますが、主要なものはやはり薬剤による防除です。現在わが国でたばこ用として登録されている農薬のうちアブラムシ対象は24種類に及びます。それらを化合物の系統で分類しますと、有機リン剤10種、カーバメート剤4種、合成ピレスロイド剤5種、クロロニコチル剤3種、有機リン剤と合成ピレスロイド剤あるいはカーバメート剤の混合剤各1種であり、茎葉散布剤、土壌施用剤などの剤型でみますと全部で29剤の多さです。たばこ以外の野菜、花卉、果樹などではさらに多くの薬剤が登録されています。何故このように多くの薬剤が登場してきたのでしょう?

 レーチェル・カーソンが著書[沈黙の春」で農薬による自然破壊に警鐘を鳴らしたのは1962年のことです。その反省から、それまで多用されたDDTBHCなどの有機塩素系農薬が1971年に使用禁止となり、代替薬剤として人畜毒性の比較的低い有機リン剤やカーバメート剤が多く使われるようになりました。その後、合成ピレスロイド剤、クロロニコチル剤などの新しい薬剤が順次開発され、有機リン剤に関しても基本骨格の化学構造が異なる種々な薬剤が上市されて来ました。このように新薬開発を促したのは害虫の薬剤抵抗性獲得という問題に直面したためでもありました。

1980年前後から、農薬の効きが悪いという現象がモモアカアブラムシやワタアブラムシで目立つようになりました。それは野菜でも、たばこでも同じ状況です。JT研究機関の調査によれば、全国の主要たばこ産地で薬剤抵抗性アブラムシの存在が広く認められています(葉たばこ研究 102、112、113、115,137号)。有機リン剤、カーバメート剤、合成ピレスロイド剤のいずれでも抵抗性アブラムシが出現しています。薬剤抵抗性の状況は地域により、畑により、さらには畝ごとのアブラムシによっても異なるということです。モモアカアブラムシは周辺の作物、雑草からたばこに飛来して繁殖する訳ですからアブラムシのコロニーごとに違いがあるということでしょう。登録年次が古いものほど効きが悪いとは限りませんが、有機リン剤のなかではアセフェート剤(浸透移行性で有効期間が長い)の抵抗性が全国的に顕著です。1990年代から使用されるようになったクロロニコチル剤では抵抗性はまだ問題になっていないようですが、浸透移行性の薬剤なので、世代交代の早いアブラムシの場合は要注意です。 

(久保進)

 


アブラムシの薬剤抵抗性(その2)

 野外のアブラムシに薬剤抵抗性の系統が出現しているのは事実です。繰り返し散布された合成薬剤が突然変異を誘発したのでしょうか?アブラムシの薬剤抵抗性の機序については国内外でいろいろ研究されてきており、それによりますと突然変異ではなくて淘汰であるとされています。アブラムシのごく一部の個体は抵抗性の遺伝子を元々持っていて、そのような虫が薬剤散布に耐えて生き残っていると考えられるのです。いわゆる「生物の多様性」ということを示す事例です。モモアカアブラムシはたばこのシーズンに当たる期間の「夏寄主」上で約30世代を繰り返すことが知られています。その間は単為生殖によって雌虫ばかりが多数胎生されます。薬剤に強い個体が選別されるには極めて好都合な生態をアブラムシは備えているといえます。

 既存の合成薬剤は害虫の神経伝達系に作用するものがほとんどです。その代表がアセチルコリンエステラーゼ(ACE)阻害であることはよく知られているところですが、薬剤抵抗性のアブラムシではそのACEの薬剤作用点のアミノ酸が変わっていて、有機リン剤やカーバメート剤に感受性が低くなっているということです。有機リン剤、カーバメート剤、合成ピレスロイド剤抵抗性のアブラムシで見られるもうひとつの特徴は、エステラーゼやオキシダーゼなどという薬剤と結合して分解する(解毒)酵素の増製ということです。ノースカロナイナのたばこのモモアカアブラムシや日本の野菜のワタアブラムシで、有機リン剤抵抗性のものはカルボキシエステラーゼ(CE)活性が高いという報告があります。CE活性を指標にすれば、アブラムシの薬剤抵抗性の有無を個体単位で検定できるということです。

 新薬開発と薬剤抵抗性アブラムシとのイタチゴッコは今後も続くことでしょう。抵抗性の発達をできるだけ抑えるためには、従来から言われている通り、同じ系統の薬剤を連続して使わないことや、耕種的方法を交えながら使用回数を減らすことなどに配慮した対応が肝要でしょう。

(久保進)

 


生理的斑点病はどんなときに発生するの

 気象条件やたばこの栄養状態が原因で発生する斑点性の病害は、一括して生理的斑点病と呼ばれています。古来「ひえぼし」「よう気ぼし」などといわれてきた斑点病もこの一種ですが、日本では昭和40年代に多発し、同時に、原因や対策についての科学的な検討が行われるようになりました。

 生理的斑点病はI型からV型までの5種類に分類されていますが、実際問題としては、大土寄せ期から発蕾期にかけて発生する白色斑点病と開花期ごろに発生する褐色斑点病の2種類があると考えてよいでしょう。褐色斑点病の場合は、斑点が互いに融合して不整形の病斑を形成し、葉が枯れ上がることもあります。

 たばこの生理的斑点病は夜間の温度が異常に低くなると発生しやすく、数日冷雨が続き天候が回復して強い日射を受けた場合には、とくに発生しやすくなります。さまざまな研究の結果から、大気中のオキシダントが重要な役割を果していることが明らかにされていますが、反面、たばこの栄養状態や生育条件の違いによって発生の程度が著しく異なることもわかっています。したがって、その面からの対策を講じることも不可能ではありません。

 生理的斑点病は多湿な排水不良地で根の発達が悪いたばこ、堆肥の施用量が少なく急激な肥切れを起こしたたばこ、燐酸の吸収が不十分なたばこなどで発生しやすく、とくに燐酸が不足したたばこでは、白色斑点病が発生しやすくなります。こうしたことから、生理的斑点病の防除対策としては、ほ地の排水対策を行う、堆肥の投与により地力の向上と土壌物理性の改良に努める、燐酸が不足しない施肥設計を行い場合によっては有機肥料や緩効性肥料の割合を高める、肥料を畦の下層に条肥として施すなどが考えられます。また、防風垣を設置し、冷風を防ぐことも有効な対策です。

(佐藤昌良)

 


たばこの細胞を培養する技術はどんなことに役立つの

 植物の細胞を無菌的に培養すると、細胞を増殖させることができ、増殖した細胞から植物体を再生させることも可能です。植物体を再生させる技術は、1950年代にニンジンやたばこを材料にして確立され、以来多くの植物で研究されてきました。たばこでは、この技術はすでに完成されているといってよいと思います。細胞培養の技術には、大量の細胞を得ること自体を目的として、植物体の再生を目的としない場合もありますが、ここでは、培養した細胞から植物体を再生させることの意義を考えてみましょう。

きわめてわかりやすい一例として、細胞選抜という技術があります。この技術では、細胞の培養中に特別な成分を加えます。この成分は、除草剤の成分であっても病原菌の出す毒素であってもかまいません。その結果、この成分に弱い細胞は死滅し、強い細胞だけが生き残るのです。生き残った細胞から植物体を再生させれば、除草剤耐性の植物や病原菌に強い植物が得られます。

 細胞培養技術を利用したもう一つの重要な技術として、細胞融合法と呼ばれる技術があります。この場合は、一時的に細胞壁を溶かしたいわゆる裸の細胞すなわちプロトプラストを用いることが特徴です。プロトプラストは互いに融合する性質があり、二つの細胞が融合した一つの細胞から植物体を再生させることができます。融合は同種の細胞に限らず、種が異なる細胞の間でも起こりますので、例えばたばこの栽培種のプロトプラストと野生種のプロトプラストを混合して融合を起こさせれば、栽培種と野生種の雑種の細胞が得られ、この細胞から植物体を再生させますと、雑種植物を得ることができます。タバコ属の野生種はどれでも栽培種と交配できるわけではなく、普通の方法では雑種を得ることが不可能な場合がありますが、そのような組み合わせでも、細胞融合法を利用して雑種植物を得ることができたという例があります。

 近年、バイオテクノロジーの分野では、遺伝子組換えの技術が最先端の技術として注目されています。この分野でも、細胞を培養する技術が基礎となっていることを付け加えておきましょう。遺伝子組換えの技術では、まず細胞の中に遺伝子を入れてやる必要があるのですが、この細胞から植物体を再生できなければ遺伝子組換え植物は得られませんので、培養細胞から植物体を得る技術がきわめて重要な意味を持っているといえます。

(佐藤昌良)

 


昔のたばこ栽培ではどんな肥料が使われたの

 葉たばこは、天正年間(1573〜1592)にポルトガル船によって初めて日本国にもたらされ、慶長年間(1596〜1615)には日本各地で栽培されるようになりました。徳川幕府は慶長10年頃(1607)から元和2年頃(1616)にかけて、数回にわたり禁煙令を出したり、タバコの栽培を禁止したりしましたが、喫煙の風習を止めることはできず、しかも開墾地での耕作は許可する等、禁煙令も栽培禁止令も次第にゆるやかなものとなっていきました。享保10年(1725)になると、幕府は諸藩の財政立直しのためたばこ栽培を奨励するようになり、元禄年間(1688〜1704)には既に東国から九州にかけて産地ができていました。その後も、たばこ耕作は、幕府の保護奨励政策によってますます盛んとなり、耕作技術も一段と進歩し、各地に銘葉産地が形成されました。

 それでは、たばこ栽培の急速な普及とその耕作技術の発展を支えた肥料には、その当時どのようなものが使用されていたのでしょうか?
 江戸時代の農業で頼りにされた肥料給源は、人糞尿、草木灰、農耕作業の役用として飼育されている家畜の厩肥や入会地における刈草等でした。その頃、既に米糠、菜種粕、干し鰯等の販売肥料が出廻っていましたが、それらは値段が高過ぎて農民には手が届きにくく、自給肥料の不足もあって、作物生産に十分な肥料を投入できなかったようです。
 たばこ栽培においては、油粕、魚粕、人糞尿、堆厩肥、草木灰等の中から適宜組み合わせて施用される場合が多く、施用される肥料の種類や量は地域により相当異なっています。堆肥あるいは厩肥のどちらかと、人糞尿は共通的に施用され、菜種油粕や魚粕は施用されない場合もみられています。このような有機質肥料主体の施肥法は、化学肥料が本格的に使われるようになった戦後まで続きました。

 薩摩地方では古来から菜種油粕の使用が奨励されてきました。「薩隅煙草録」(1881)によれば、油粕の施用は、病害の発生を鎮静したり、痩地でも名葉を産出できるなど、厩肥、人糞尿、魚粕との比較で油粕の卓効と絶対的な優越性が認められています。
 岩手県大迫地方は300年にわたる銘葉産地(南部葉)として知られています。その土壌は300年にわたる厩肥(馬)の連用により、我が国では最も土壌窒素の無機化力が高く、香味にすぐれたバーレー種の生産が行われております。

 最近のたばこ栽培でも、油粕の配合された有機化成肥料が広く使用され、他の作物に比べてたばこ作は有機質肥料への依存度が高いといえましょう。

(喜田村俊明)

 


バークやおがくずの入った厩肥を堆肥化するにはどうすればいいの

 たばこ産地においても、バークやおがくずを敷料とする厩肥を堆肥として施用される場合がたいへん多くなってきています。一般に、バークやおがくず等の木質物は腐熟しにくく、家畜の生ふんは葉たばこの品質を損なう塩素や水溶性窒素を多量に含んでいます。しかしながら、これらの木質物を含む厩肥は、貴重な有機物資源なので、リサイクルして良質なたばこ用堆肥として活用する必要があります。

 堆肥材料としては、木質物を含む生ふんのみでは、腐熟が進みにくかったり、仕上がった堆肥の養分に偏りがみられる場合があります。そこで、堆肥化にあたっては、木質物を含む生ふんの使用割合は全体の2/3以下までに止め(木質物の割合は全体の1/3以下)、その他補助材料として稲わら、たばこ残幹、野草、落葉(約2%)、米糠(約5%)等で入手可能なものをを配合し、これらを堆肥盤に約1.5mの高さに堆積します。できれば堆積物は農業用シート等で覆い、通気性や透水性をよくするため、プラスチック製の網目状パイプを埋め込みます。

 堆積後数日で堆積物の温度は60〜70℃まであがり、いわゆる高温発酵期に入り、腐熟が促進されるとともに、病原菌や雑草の種子が死滅し、悪臭も減少します。約1か月後に表面のシートを外し、堆積物を雨ざらしにして、いよいよ雨水による塩素の除去に入ります。
 雨ざらしにして約3か月後(降水量約450mm以上になった時)に堆積物の山を上半分と下半分に分け、それぞれ別々に堆積し直し、雨ざらしを続けます。この理由は、約450mmの降水によって堆積物の山の上層では80〜90%の塩素が溶脱しますが、下層では塩素の溶脱が遅く、その含量が高いからです。堆積物の山の下層については、さらに3か月後に同様の作業を繰り返します。これが、たばこ用堆肥の切り返し作業といわれるものです。

 このようにして、1年経過すると木質物を含む厩肥でも黒褐色に変化し、悪臭や汚物感もなくなると同時に、腐熱度も十分で塩素含量の低い良質なたばこ用堆肥が生産できます。なお、年間1,200mmの降水量で厩肥中に含まれる塩素の90%が溶脱により減少します。

(喜田村俊明)

 


石灰含量が適範囲以上なのにどうしてpHの低い土壌があるの

 土壌は、交換性石灰含量と交換性塩基飽和度が土壌改良目標値の範囲内に入っていれば、土壌酸度も作物の生育に適した範囲になるのがふつうです。

 ところが、タバコ作前の土壌診断で、交換性石灰含量が適正域あるいは過剰域にあって、しかも交換性塩基飽和度も適性域あるいはそれより高い範囲にあるにもかかわらず、pH(H20)が5以下と強酸性を示す土壌がみられます。このような土壌では、中和石灰量が10a当たり数百kgと計算される場合もみられ、通常の石灰施用量では酸度矯正効果が認められず、時にはタバコにアルミニウム障害を引き起こすことさえあります。その交換酸度y1は弱酸性〜極強酸性を示し、交換性アルミニウムが高く、この他硫酸イオン、硝酸イオンが高い値を示すのが特徴となっています。

 一般に、土壌のpH(H2O)は、交換酸度y1や交換性石灰との間に密接な関係を有します。しかし、この強酸性土壌のpH(H2O)は、交換酸度ylや交換性石灰がいずれも高いため、それらの関係はそれ程明らかなものではなく、逆に、硫酸イオン、次いで硝酸イオンの強酸性を示す因子との間に高い負の相関が認められます。したがって、この土壌が強酸性を示すのは、強酸的な性格を有する交換性アルミニウムの存在および硫酸イオンの残留に伴って中和石灰量が著しく上昇したため、通常の酸度矯正法では対応できなかったことによります。

 硫酸イオンは、たばこ作でも硫酸加里や過燐酸石灰の副成分として土壌中へ投入され、一部は石灰イオンと反応して難溶性の石膏となって沈殿しますが、土壌中にも残留しやすいのでそれらの過剰施用を避ける必要があります。このような土壌で配合肥料以外に加里を補給する場合には、重炭酸加里の使用が妥当と思われます。また、窒素肥料の過剰施用も硝酸イオンを残留させるので避けてください。

(喜田村俊明)

 


タバコの根は畦の下層からどれぐらいの窒素を吸収できるの

 タバコの窒素吸収は、肥料窒素だけでなく、作付け前に表土あるいは下層土に集積しているいわゆる土壌窒素にも大きく支配されています。表土に集積している無機態窒素のタバコに吸収される割合(タバコによる利用率)は肥料窒素と同様で50〜60%程度とされています。それに対して、表土より下位の根群領域に分布している無機態窒素のタバコによる利用率はどれぐらいでしょうか。

 そこで、既に土壌中に存在している窒素と区別できる重窒素標識硝酸カリウムを心止め10日後に、黒ボク土の地表面から10cm,30cm,50cm,70cmの深さに水溶液で注入して、タバコの最終収穫時における無機態窒素の吸収・利用状況を調べた結果を紹介することとします。

 その結果によると、地表面から30cm,50cmおよび70cmの下層土に窒素を注入した場合、タバコは成熟期間中に少なくともそれぞれ1kg以上/10ア-ル、合わせて3kg/10ア-ル以上の窒素を施肥位置以外からも吸収する能力をもっています。
 タバコの土壌無機態窒素の利用率を深さ別にみると、10cm注入で61%、30cm注入で52%、50cm注入で46%、70cm注入で43%の値を示しました。このように、下層土に集積している無機態窒素は、成熟期に入ってタバコの基本根が下層へ伸長するに伴って、畦内の窒素ほどではないにしても、かなり高い利用率で吸収されることがわかります。
 
 それでは、土壌窒素の集積している位置によって、成熟期に吸収された窒素の行方に違いはあるのでしょうか。中葉系上位〜本葉系下位への吸収窒素の分配率は、50cm注入および70cm注入で29〜30%、10cm注入で19%でしたが、本葉系上位でのそれは前者で23〜25%、後者で33%とそれぞれ対照的な結果となっていることが注目されます。

 成熟期に下層土から供給される無機態窒素は、適量分布している場合には中葉系および本葉系下位の早期色落防止や順調な成熟に良い影響を及ぼしますが、過剰に集積している場合には葉たばこの晩作化と品質低下をもたらします。これに反して、作土が浅く、下層土からの窒素供給が少ない土壌では、成熟期に中葉の色落ちや枯れ上がりをもたらします。したがって、葉たばこの品質・収量の安定化のためには、有効土層を厚くして、基本根の発達を促進させ、過剰な無機態窒素の過剰集積を防ぐような土壌管理が必要となることはいうまでもありません。

(喜田村俊明)

 


たばこの害虫はたばこを食べる以外にどんな悪さをするの

たばこを加害する昆虫・小動物はきわめて多岐にわたり、日本では約40科に及ぶ多くの種類が知られています。これらは土壌害虫(根や地際の茎を食害する害虫)、食葉性害虫、吸汁性害虫に大別され、たばこを食害して目立った被害をもたらすものですが、直接的な食害に加えて、間接的な悪さをするものがあります。それは吸汁性害虫によるすす病の誘発とウイルス伝搬という悪さです。

 モモアカアブラムシやコナジラミ類(タバココナジラミ、オンシツコナアジラミ)がたばこで繁殖すると大量の排泄物を出します。排泄物は糖分やアミノ酸を含み甘露と呼ばれます。害虫が寄生した葉より下位にある葉の表面はこの排泄物を浴びるとテカテカとひかり、やがてそこにカビなどが繁殖して黒く変色します。これがすす病で、すす病に罹った乾葉の色沢や香喫味は著しく低下します。

 わが国のたばこに発生する14種類のウイルス病のうち9種類を吸汁性昆虫が伝搬します。アブラムシ類(モモアカアブラムシ、ワタアブラムシ、ダイコンアブラムシ等)はキュウリモザイク病、タバコ黄斑えそ病などの6種類を、タバココナジラミはタバコ巻葉病を、アザミウマ類(ネギアザミウマ、ミナミキイロアザミウマ等)はタバコ黄化えそ病とタバコ条斑病を伝搬します。 ワタアブラムシやダイコンアブラムシはたばこでは繁殖しないのですが、他作物から移動の途中にたばこへ一時降下して吸汁を試み、その際にウイルスを置き土産とします。日本のたばこ作では、黄斑えそ病は最重要病害のひとつであり、その意味からしても吸汁性害虫の最大の悪業はウイルス伝搬であるといえます。

(久保進)



たばこ用の除草剤にはどんな種類があるの

 除草剤の使用にあたっては、効果的でかつ薬害を起こさない使用方法を守ることが何よりも重要です。そこで、たばこ栽培では、たばこへの影響や除草効果が十分に検討された除草剤すなわちたばこ用として登録された除草剤のみが使用可能であり、使用者には基準となる使用方法(使用基準)を厳守していただくというルールが確立されています。したがって、たばこ耕作者の皆さんは、登録された除草剤のみを定められた方法で使用しなければなりません。それぞれの除草剤の特性や使用基準は薬剤によって異なりますので、その点に十分留意することが必要です。

 現在日本で登録されているたばこ用除草剤には、7種類(商品名として8種類)の薬剤があります。大別すると、たばこの移植前に使用できるものと、たばこの移植後30日程度を経過した大土寄期に使用するものとに分けられます。
 
 移植前に使用可能な除草剤は、畦を作ったあとの土壌に薬剤を散布し、その後畦を被覆するという方法で使用され、被覆後の雑草の発生を抑える効果があります。このタイプの除草剤には、シデユロン剤(水和剤)、アラクロール剤(乳剤)、ブタミホス剤(乳剤、粒剤)、クロルフタリム剤(水和剤)の4種類がありますが、植付けの10日前までに使用しなければならないもの、あるいは、トンネル栽培や改良マルチでの使用が禁止されているものがありますので、注意しましょう。

 一方、大土寄せ時あるいは大土寄せ後に使用できる薬剤は、主として畦間の雑草防除を目的にしています。したがって、たばこに直接かけないようにすることが、使用上の最大の要点になります。薬剤としては、トリフルラリン剤(粒剤、乳剤)、グルホシネート剤(液剤)、フルアジホップ剤(乳剤)の3種類があります。

(佐藤昌良)

 


たばこの花粉は長期間保存できるの

 たばこの栽培では、心止めという作業により花の部分を摘除しますので、花粉の寿命について関心が持たれることはほとんどないと思います。また、種子を採種する場合でも、開花と同時に自然に授粉が行われますので、花粉を貯蔵する必要はありません。しかし、一代雑種いわゆるハイブリッドを品種として利用する場合や育種のための交配実験などでは、花粉を貯蔵できるかどうかという問題が重要になります。

野外で開花した花の花粉については、温湿度の変化が激しく、降雨の可能性もありますので、花粉の寿命はかなり短いといえますが、新鮮な花粉をしかるべき条件で貯蔵した場合には、その寿命は意外に長く、1年以上貯蔵することも不可能ではありません。

 一般に花粉の寿命は温度、湿度、光の3条件に左右され、温度や湿度は低いほどよく、光は遮光されている条件がよいといわれています。たばこの花粉については、室内に放置した場合、9週間を経過して授粉したものでは、全く種子ができなかったとされていますが、0℃、湿度5%の条件で貯蔵した花粉は、2年以上を経過してもなお少量の種子を生産できたと報告されています。さらに別の実験では、低湿度でかつ−20℃という低い温度で花粉を貯蔵した場合には、12〜16ケ月を経過しても、新鮮花粉の授粉時とほとんど変わらない重量の種子を得ることができました。

 以上のように、たばこの花粉の寿命は意外に長いことがわかりますが、貯蔵の条件によっては、貯蔵期間が長くなるほど得られる種子の量が少なくなり、また、種子の大きさや1粒重に影響が出ることもあります。

(佐藤昌良)

 


世界の土壌はいま、そして日本では(その1)

 地球上における土壌生成の始まりは、今から3億5,000万年前の古生代(シルル紀)に遡るといわれています。このはるかなる太古から、土壌はゆっくりと成長をつづけ、動植物と相互に依存しながら肥えてゆたかな厚い層を形成してきました。

 しかし、約6,000年前の文明人の出現とともに、土壌は資源として利用されるようになり、土壌生成作用は多くの地域でそれまでと一変し、衰退の道をたどり始めました。さらに、近代以降になると、人口の急激な増加に伴い、人類は土壌を酷使することによって農業生産を高めてきました。このような高い生産性の追求は、土壌の作物生産機能や土壌肥沃度を低下させ、土壌侵食・土壌流出、潅漑農地の塩類集積や土地の砂漠化(注1参照)等の土壌の崩壊を引き起こしました。その結果、世界のいたるところで耕地面積の減少がみられ、世界中で実に毎年600万ヘクタ-ル(日本の国土面積の1/6)の土地が砂漠化によって失われています。

 一方では、新たな耕地が開拓され、世界の耕地は1990年代には年率で0.15%程度の増加が見込まれていますが、既に人口増加に対応した耕地面積の増大は将来期待できなくなっています。しかも、現在の技術で耕地として使用可能な土地面積(既耕地を含む)の67%は、風化と養分の溶脱の進んだラトソル、砂漠土、洗脱が進み酸性の強いポドソル等の不良土で占められています。

 土壌の生成される速度は、北アメリカでは1センチメ-トルの厚さとなるのに500年もの年月を要すると推定されています。このことからも、いま、収奪的な農法や不適切な土壌管理法によって、太古から生成されてきたゆたかな土壌が流出したり、不毛化したりするとその回復は容易でなく不可能に近いと思われます。

 本稿は、庄子貞雄編:新農法への挑戦 生産・資源・環境との調和(博友社,東京,1995)を引用して作成しました。

 注1)土地の砂漠化:砂漠化とはサハラ砂漠のイメージではなく、保有能力を超えた農地の過剰使用や不適切な土地管理、過放牧等の人間活動によって引き起こされる土地の不毛化を意味します。

(喜田村俊明)

 


世界の土壌はいま、そして日本では(その2)

 日本の農耕地土壌の現状はどのようになっているのでしょうか。

 日本の農耕地面積を土壌別にみると、褐色低地土、灰色低地土等の沖積土壌が48%、黒ボク土等の火山灰由来の土壌が26%、褐色森林土9%、赤色土・黄色土等が8%を占めております。このことは、我が国の耕地土壌は、世界の土壌と異なり、土壌生成年代の新しいものが多く、生産性の低い不良土壌が極めて少ないことを示しています。

 沖積土壌は、我が国においても生産性の高い土壌で、その大半は水田として利用されてきました。

 火山灰土は、北海道、東北、関東、九州の4地域に集中し、我が国の普通畑の6割以上を占めています。かって火山灰土は、酸性で、りん酸固定力が強く、りん酸肥料の肥効が著しく低いために、代表的な低位生産性土壌とされていました。しかし、第二次大戦後の食糧難の時代に、開拓地を中心とする火山灰土の地力増強法や施肥法に関する試験研究が急速に進展し、黒ボク土は、今や世界でも有数の生産性の高い土壌となっています。

 日本のたばこ産地土壌の分布を土壌別にみると、1980年の統計では黒ボク土等の火山灰由来の土壌が38%、沖積土壌が11%であり、褐色森林土、黄色土はそれぞれ10数%程度でしたが、最近では九州と東北産地の面積比率が高くなり、生産性の安定している黒ボク土の占める割合がさらに大きくなっているものと考えられます。

 しかしながら、我が国では近年堆肥施用の減少と化学肥料依存の傾向が強まり、土壌が本来保有している作物生産機能や環境保全機能を減じている場合も少なくないようです。たばこ作においても、日本の生産性の高い土壌を将来にわたって保全し、持続していきたいものです。

(喜田村俊明)

 


植物ウイルスの分類はどうなってるの

タバコモザイクウイルスの発見(1898)を端緒として、動植物、微生物から数千種類に及ぶウイルスが記録されてきました。ウイルスの種類が増えるに伴い、それらを分類整理しようという動きが1960年代から始まり、国際的な調整や標準化の検討が重ねられてきましたが、このほどその作業が終わりました(2000)。動植物は門、綱、目、科、属、種と階層分類され、種名は属名と併せていわゆるラテン二名法によりイタリック表記するのが基本で、タバコはナス科タバコ属、学名をNicotiana tabacum L.と記載されるのはご存知のとおりです。ウイルスは生物ではないので動植物のような種の概念は当てはまりませんが、ウイルスにも科―属―種という階層分類を適用して生物分類に幾分なぞらえたかたちとなっています。

今回整理された植物ウイルスは1779951種で、このうち日本でも記録されているものは1352271種です。なお、全てのウイルスの帰属が確定しているわけではなく、1部は暫定種となっています。日本のタバコで発生が知られている13種のウイルスの分類は以下のとおりです。科名、属名、種名ともイタリック表記し、それぞれ頭文字を大文字とします。

科名  属名 種名 和名
Bromoviridae   Alfamovirus Alfalfa mosaic virus   アルファルファモザイクウイルス
  Cucumovirus Cucumber mosaic virus   キュウリモザイクウイルス
  Ilarvirus     Tobacco streak virus   タバコ条斑ウイルス 
Bunyaviridae Tospovirus Tomato spotted wilt virus  トマト黄化えそウイルス 
Geminiviridae  Begomovirus  Tobacco leaf curl virus タバコ巻葉ウイルス 
Luteoviridae  *  Tobacco necrotic dwarf virus   タバコえそ萎縮ウイルス
Potyviridae   Potyvirus  Potato virus Y   ジャガイモYウイルス
    Tobacco vein banding mosaic virus  タバコ脈緑モザイクウイルス
Tombusviridae?  Necrovirus?   Tobacco necrosis virus   タバコネクロシスウイルス 
* Potexvirus Potato virus X   ジャガイモXウイルス
* Tobamovirus Tobacco mosaic virus タバコモザイクウイルス 
* Tobravirus   Tobacco rattle virus  タバコ茎えそウイルス
Varicosavirus Tobacco stunt virus タバコわい化ウイルス

注) *: 未確定    非イタリック種名: 暫定種

(久保進)

 


たばこには治る病気と治らない病気があるの

 病気に罹ったたばこをそのまま放置しておいても治るということはまずありませんが、たばこの生育ステージが進むとか環境変化によって症状が軽快するという場合はあります。ジャガイモYウイルス(普通系)やたばこ脈緑モザイクウイルスに罹っても生育への影響は少なく、特に生育後期になると症状が極めて軽くなって判別できないほどになります。また、たばこわい化ウイルスに罹ったタバコは気温が25度以上になると症状が出なくなります。症状が軽快あるいは消失したとしてもウイルスがなくなった訳ではありませんので乾葉への質的な影響は残り、病気が治ったとは言えないでしょう。

 カビや細菌による病害が発生した場合、適切な薬剤散布を行うことによって病気の進行を押さえ込むことが可能です。薬剤散布によっても既に生じている病変を治すことは困難ですが、早めに処理をすれば病変の拡大や他の部分への進展を阻み、結果的に実害のない状態に保つことはできます。うどんこ病、赤星病、野火病など主として茎葉表面に局部病斑を生じる病気は薬剤散布をすれば治る場合もあるということができましょう。他方、根や維管束が侵される全身病(立枯病、黒根病など)の場合は、発病後の薬剤処理では手遅れで十分な治療効果は期待できません。したがって、周辺の健全株へ広がるのを抑えるため、発病株を早めに抜き取ることも行われます。 

(久保進)

 


ニコチンを作らないたばこの品種はあるの

 たばこのニコチンは根で作られ、葉に蓄えられるということは、皆さんもすでにご存知のことと思います。したがって、ニコチンを作らないたばこというのは、根でニコチンが作られないたばこということになりますが、結論からいいますと、このようなたばこの品種あるいは系統は、まだ知られておりません。かつて、そのようなたばこがあるという研究報告もあったと記憶していますが、その後、実物として世界に紹介されたわけでもなく、確認もされていませんので、そのようなたばこの存在は実証されていないというべきでしょう。ただし、ニコチンを作らない植物の根にたばこを接木した場合には、ニコチンを含まないたばこになる可能性はあります。

 ニコチンをまったく作らないたばこはないとしても、根で作られるニコチンの量が少ない品種は存在します。日本で栽培されている黄色種のエムシーは、通常の黄色種の60%程度のニコチンしか作りません。この品種は、緩和原料として、たいへん優れた特徴をもっています。この他にも、通常の品種の40%程度のニコチンを作る品種、あるいは、10%程度のニコチンを作る品種などが知られています。10%ということは、通常の葉たばこのニコチン含量が乾物重量の2%程度だとしますと、0.2%のニコチンしか含有しないということですから、きわめて低ニコチンの品種であるといえます。こうした素材は、各国の研究者によって注目され、とくにアメリカでは、この性質をバーレー種に導入するために、たいへんな努力が払われました。しかし、これほどの低ニコチンたばこになりますと、喫味への影響が大きく、また葉たばこの色調にも好ましくない影響が出ることがわかり、実用化には至っていないというのが現状です。

(佐藤昌良)

 


タバコ属の野生種もニコチンを作るの

 ニコチンはアルカロイドと呼ばれる物質の一種です。アルカロイドとは植物中に含まれる塩基性(アルカリ性)の含窒素有機化合物を指し、カフェイン、キニン、コカインなどもアルカロイドの一種です。

 タバコ属には67の種(うち1種は人工的に作られた園芸種)が含まれていますが、アルカロイドを含有しない種はありません。主なアルカロイドは、ニコチン、ノルニコチン、アナバシン、アナタビンの4種類で、60種について調査した比較的最近の研究結果によりますと、ほとんどすべての種は多かれ少なかれこれら4種類のアルカロイドを含有しています。ニコチンもすべての種から検出されていますので、その意味では、タバコ属の野生種はどれもニコチンを作るといってよいでしょう。初期の研究では、種によってニコチンが検出されなかったという報告もありましたが、最近の精密な分析では、ニコチンはすべての種から検出されています。しかし、種によっては、ニコチンの量がきわめて少なく、ノルニコチンその他のアルカロイドが量的に多い場合があります。

 上記4種類のアルカロイドは、すべてが同じように含有されているわけではありません。どれか一種類のアルカロイドが多く、その他のアルカロイドは量的に少ないのが普通です。量的に多いアルカロイドは主アルカロイドと呼ばれていますが、主アルカロイドは種によって異なります。栽培たばこの主アルカロイドはニコチンですが、野生種にはノルニコチンやアナバシンを主アルカロイドとするものがあり、数の上では、ニコチンを主アルカロイドとする種よりも、ノルニコチンを主アルカロイドとする種のほうが多いことがわかっています。

 なお、野生種の一部はかつてアメリカインデイアンなどによって喫煙されていました。それらはどれもニコチンを主アルカロイドとする種であり、ノルニコチンを主アルカロイドとする種はあまり利用されなかったというのは、興味あることではないでしょうか。

(佐藤昌良)

 


 斑入りのたばこ植物ってあるの

 斑入りの性質はいろいろな観葉植物で見られますが、たばこでも決して珍しい現象ではありません。普通のたばこ畑でも、注意深く見ると、葉の一部に局部的な斑入りが観察されることがあります。全身に斑入りを示す植物が畑で見つかることはほとんどありませんが、研究機関で発見され、保存されているたばこの中には、全身的な斑入りを示すものが種々含まれています。

 植物の斑入り現象については、その原因がさまざまであり、遺伝の様式も一定ではないといわれています。たばこの場合も同様であり、斑入りの性質がメンデルの法則に従って遺伝するものもあれば、まったく違うものもあります。斑入りの植物から種子を採っても、その子孫がすべて斑入りになるとは限りません。同じ斑入りといっても、大きな斑入りや細かい斑入りなど、種類によってその外観も異なります。このように、斑入りという性質は、とても厄介な性質ですが、反面、研究の方法によっては大いに役立つこともあり、斑入り植物を研究材料にして、重要な成果が得られた例も少なくありません。

余談になりますが、かつて筆者はエックス線を照射したたばこの種子を播き、その子孫の中に、霜降りのような細かい斑入りのたばこを見出しました。そのとき上司から、「これがおもとだったら、高価なのに」といわれたことを記憶しています。

(佐藤昌良)

  

  

大きな斑入り         細かい斑入り

 


日本の在来種にはどんな特徴があるの

 江戸時代から明治にかけて、日本の各地では、さまざまなたばこの品種が栽培されていました。それらは、明治以降に外国から導入された黄色種やバーレー種と区別して、在来種とよばれています。大部分の在来種はその後全く栽培されなくなりましたが、種類はかなり多く、1982年に刊行された「本邦たばこ在来品種総覧」(大橋雄司著、日本専売公社磐田たばこ試験場刊)という資料には、260種類に及ぶ在来種の来歴や特徴が記載されています。しかし、現在では種子が失われているものも多く、残念ながら、すべてが保存されているわけではありません。

 日本の在来種の特徴については、形態的特徴、病害抵抗性から見た特徴、香りと成分から見た特徴という三つの観点から考えることができると思います。まず形態についてですが、在来種は無柄種と有柄種に分類され、無柄種はだるま系と中野系に、有柄種は国分系、水府系、秦野系、薄葉系の4系に分類されています。有柄種とは、葉の基部に柄のあるものを指し、一般に葉は小型で節間距離が長く、面積当たりの栽培本数が多いという特徴があります。逆に無柄種は、葉が比較的大型で、収量も多いことが特徴です。

 病害抵抗性に関しては、だるま、秦野、遠州、阿波などの立枯病抵抗性が古くから知られていましたが、それ以外にも、遠州は黄斑えそ病に抵抗性をもち、沖縄在来種の一部はジャワネコブセンチュウや黄斑えそ病に抵抗性をもつことが判明しています。また、国分系には、うどんこ病に抵抗性をもつ品種が多く、その抵抗性遺伝子は、黄色種のつくば1号にも導入されています。

 在来種の香りに関しては、黄色種やバーレー種とは異なった香りの傾向があり、また、在来種の中でも、品種によって香質の違いがあることが認められています。この違いが何によるものかは、科学的に十分解明されているとはいえませんが、在来種のうちの国分系品種や阿波などは、葉のヤニの成分として、黄色種やバーレー種にはない成分を含んでいることがわかっています。また、遠州には葉のヤニがなく、この性質は、世界的に見てもたいへん珍しい性質です。

 以上のように、古来の品種には現在の栽培品種にはない特徴が見られ、遺伝資源として貴重であることは、いうまでもありません。また、栽培、乾燥の方法や葉のしという作業にも独特のものがありますので、いろいろな意味で、それらの記録を大切にしたいものです。

(佐藤昌良)


土壌が酸性化するとどうしていけないの

 土壌が酸性化すると、作物の生育に有害なアルミニウムやマンガンが過剰となる一方、作物の生育に不可欠な養分(りん酸、石灰、苦土、加里、ほう素等)が不足しやすくなり、土壌窒素の無機化や硝酸化成も減少します。

 土壌が酸性化していくのは、交換性塩基(石灰、苦土等)が雨水等によって溶脱し、その代わりに交換性水素イオンあるいは交換性アルミニウムイオンが土壌粒子(粘土、腐植)に吸着されることによります。土壌のpH(H2O)が5以下になると、交換性アルミニウムイオンは、土壌粒子から遊離し、水に溶けて土壌溶液中にも存在するようになります。

 交換性アルミニウムはタバコに吸収されると、根端組織に集積され、根の分岐・伸長を阻害します。その結果、根による養水分の吸収が阻害され、タバコの初期生育を著しく阻害したり、その後の生育をも停滞させます。このような現象をタバコのアルミニウム障害と称しています。

 タバコのアルミニウム障害(酸性障害)の診断や防除を目的とした土壌酸性の診断法としては、土壌pHと”交換酸度yl”が最も簡便で有効な手段です。これらは既に産地で広く活用されているタバコ用「土壌診断システム」にも導入されています。”交換酸度yl”とは、土壌に中性の塩類溶液を加えて現われる交換性アルミニウムイオンによる酸性反応を量的に示したもので、その値による土壌酸度の区分は次のように定められています。

    交換酸度yl         l以下  1〜3     3〜6       6〜15        15以上

    酸度の区分  中性  微酸性  弱酸性   強酸性     ごく強酸性

 我が国の多くのタバコ畑土壌は、生育に有害な交換性アルミニウムを含んでいるので、塩基飽和度が低下すると、タバコにアルミニウム障害が発生し、収量がかなり低下する場合もみられます。土壌診断でpHが低く、交換酸度y1が3以上の場合には、土壌pH(H2O)で5.5以上、交換酸度ylで3以下を目安に、石灰施用による酸度の矯正を図ってください。

(喜田村俊明)

 


堆厩肥の窒素はたばこにどんな効果があるの          

 たばこ作における安定的な堆厩肥の施用は、地力の維持・向上はもちろんのこと、健全な根張りを促進するなど、その効果については皆様よくご存知のところです。

 堆厩肥に含まれる肥料成分量は、材料や堆積方法等によってかなり異なりますが、平均的には10a当たり1,200kgの施用でおおよそ窒素6kg、燐酸3kg、加里5kgであり、その他石灰や苦土、微量要素も供給されます。農地に施用された堆厩肥は、土壌微生物によってさらに分解され、肥料養分として作物に利用されます。なお、堆肥中の肥料養分が作物に利用される割合は、窒素12%、燐酸30%、加里50%ぐらいとみられています。

 そこで、葉たばこの品質・収量に最も大きな影響を及ぼす窒素成分について、堆厩肥がどのような働きをしているかみることとします。黄色種、バーレー種ともに、生育初期には肥料に由来する窒素の吸収が多く、生育後期には堆肥や土壌に由来する窒素の吸収が多くなります。最終的に標準作のタバコが吸収する窒素の約半量は堆肥や土壌に由来する窒素です。

 堆肥や土壌に由来する窒素は、耕土層で土壌有機態窒素が徐々に分解されて放出される窒素(無機化窒素)と、既に移植前から耕土層や下層土に集積している無機態窒素とから成っています。前者は、成熟期のタバコに緩やかに吸収され、順調なタバコの成熟をもたらします。一方、耕土層や下層土に無機態窒素が多量に集積していると、それらは心止期以降にも多量に吸収され、葉たばこの大型化や若返りの原因になります。

 良質な堆厩肥の窒素の肥効は単年度ではそれ程高くはないものの、連用によって無機化しうる有機態窒素が蓄積され、葉たばこの品質・収量の安定的確保に大きく貢献しています。

(喜田村俊明)

 


土壌消毒をすれば病気は出ないの

かつて輪作が基本とされていたたばこ栽培も近年では連作が一般的となっています。連作は規模拡大とか経営の効率化などの観点から自然の成り行きでしょうが、土壌病害と向き合いながらの栽培となります。立枯病、疫病、黒根病、線虫病などがたばこの主要な土壌病害で病原体の土壌中の密度が連作によって高まってくるからです。土壌消毒はこのような菌密度を低下させる手段ですが、その効果は処理条件次第で変動し、消毒さえすれば病気が出なくなるというものではありません。

たばこ用の土壌くん蒸剤および殺線虫剤としてクロルピクリン剤、D-D剤など13種が登録されています。液剤、油剤、粒剤など剤形に応じて土壌注入、土壌混和などの方法で処理されますが、いずれの場合も施用後有効成分が土壌中でガス化、拡散して病原体を死滅させることが狙いです。処理時期はたばこ収穫後の秋(全面処理)あるいは植付け前の春(部分処理)で、処理の効果は地温、土壌水分、処理後の被覆条件などによって左右されます。また、薬剤を注入する深さも重要で、地下15~20cmが一般的ですが、地下40cmの深層処理でより高い防除効果を得たという報告もあります。病原体の地中の分布はたばこの根の分布と関連し、例えば立枯病菌は地表下80cmからも検出されています。このような場合では深層処理がより有効という訳です。

消毒によって土壌中の病原体を根絶やしにすることは不可能です。適切な消毒で土壌中の菌密度を下げてたばこへの感染を回避する、あるいは発病時期を出来るだけ遅くして実害を少なくするというのが実際的な土壌消毒への期待値です。土壌中には無数の微生物が生息しており、その中には病原微生物を抑える拮抗菌類、たばこの栄養吸収に資する根菌類などの有用な微生物もいますが、土壌消毒剤は選択性がなく言わば両刃の剣でもあります。また、葉たばこの品質や環境への影響などの問題もありますので、たばこ畑の衛生管理に当たっては薬剤だけに頼ることなく耕種的方法なども組み合わせた総合的な対策が推奨されています。

(久保進)

 


たばこはどんなときに病気に罹るの

 たばこの病気には寄生病、生理病、遺伝病などがありますが、ここでは畑のたばこが寄生病(伝染性病害)に罹る場合について考えてみましょう。たばこが病気に罹るということは、たばこが特定の病原体あるいはその媒介者を拒絶できる素質(遺伝的素質、生理的素質)をもっていないことが前提となります。そのようなたばこが病原体に遭遇すれば必ず発病するかというとそうとは限りません。そこにある程度以上の病原体密度があり、感染を促す環境がある時はじめて感染が成立します。そして組織内での病原体の増殖が進行し、病変が肉眼的に認められるようになったとき病気に罹った(発病した)といいます。いくつかの例でみてみましょう。

わい化病は土壌菌Olpidium brassicae(萎黄病の病原菌)によって特異的に伝搬されるウイルス病です。黄色種のエムシー1号はわい化病に罹りませんがブライトエロー4号(BY-4)は罹ります。そのBY-4も感染するのは葉数が4~5枚以下の苗床期に限られ、本畑での感染は起こりません。また、本病の症状は気温17度近辺で最もよく現れ、25度以上になると発現しなくなります。

わい化病の例は病原体およびその媒介者とたばことの極めて特異な関係ですが、野外には普遍的に分布する病原体があり、たばこは常時それらに曝されている場合があります。多犯性の空洞病菌、うどんこ病菌などがその例で、たばこの茎葉の表面に飛来した菌は風雨などによってできた傷から侵入、感染しますし、湿潤な環境を得ると発芽、侵入します。日照不足、窒素過多などで柔軟なたばこは傷が付きやすく、混み合った下葉や地際部は湿潤になりがちなので感染発病の機会が多くなります。

糸状菌や細菌が浸入しますと植物細胞はファイトアレキシンとか感染特異的蛋白質(PR蛋白質)と言われる物質を産生して感染を阻止しようとします。これに対して侵入者側はそれらの産生を抑制したり無毒化したりして感染を成立させ、さらには毒素や細胞壁を溶かす酵素などを出して増殖を続け病巣を拡大していきます。肉眼で認められる病変は植物と病原体とのせめぎ合いの結果です。葉が老化すると抵抗機能が低下し発病し易くなります。

たばこが病気に罹る過程の詳細は病原体ごとに異なるものの、総じて上記のような病原体とたばことの相互関係およびそれを取り巻く環境によって規定されていると言うことができます。

(久保進)

 


たばこの種子の寿命はどれくらいなの

 一般に植物の種子は、採種してからの年数が経過するにつれて、発芽する種子の割合すなわち発芽率が低下します。発芽率低下の程度は温度や湿度の条件によって大きく左右されますが、とくに高温、多湿の条件では、発芽率の急激な低下が見られます。たばこの種子は30%程度の脂肪を含有し、吸湿性がそれほど強くはないという特徴がありますので、低脂肪の種子に比べると寿命もやや長いといえますが、それでも、普通に放置された状態では、発芽率の低下は避けられません。1年後あるいは2年後の発芽率がどの程度低下するかは一概にはいえませんが、日本の気候条件下では、23年で全く発芽しなくなります。

 一方、たばこ種子の貯蔵方法と発芽率の変化に関するさまざまな研究の結果によりますと、塩化カルシウムなどの乾燥剤とともに貯蔵した場合には、1020年を経過しても、発芽率の低下はほとんど認められません。また、種子の水分含量がやや高めである場合には、低温で貯蔵すると、発芽率の低下を防止する効果があります。

日本の気候条件下では、通常のたばこ種子の水分含量は79%と考えられますが、学術的な意味で長期保存される種子の水分含量はそれよりも低く、4%程度に調整されています。しかも、この状態で缶詰にされ、かつ低温条件で保存されていますので、その寿命はおそらく50年を超え、半永久的である可能性もあるといえるでしょう。なお、翌年の播種期までの保存を目的とする場合には、種子をこれほどの乾燥状態にする必要はありません。種子をよく風乾し、できるだけ吸湿を避け、温度が上がらない条件で保存すれば十分です。人工的に加熱して種子を乾燥することは、危険なので行ってはなりません。種子の水分含量を誤って3%以下にした場合には、かえって種子を死滅させることになります。

(佐藤昌良)

 


タバコモザイク病に強い品種はどうやって作られたの

現在日本で栽培されているたばこの品種の中では、バーレー21、きたかみ、みちのく、白遠州と黄色種のつくば1号がタバコモザイク病に対する抵抗性をもっています。これらの品種のタバコモザイク病抵抗性は、タバコモザイクウイルスが侵入した場合に、その周辺の細胞が自ら死滅することによってウイルスの広がりを防ぐというタイプであり、局所過敏感反応型の抵抗性とよばれています。しかし、このタイプの抵抗性は、もともと栽培たばこの品種には無かったもので、タバコ属の野生種であるニコチアナ・グルチノーサに由来しています。

 たばこの各種病害に対する対策として品種のもつ抵抗性を利用しようという考え方は、20世紀の初めにアメリカで提言され、以来、さまざまな病害に対する実用的な抵抗性品種が育成されてきました。具体的には、たばこの品種を収集して、その中から病気に強いものを探索し、実用的な品種と交配するという方法が基本になっています。タバコモザイク病抵抗性の場合も例外ではなく、研究の結果、いくつかの抵抗性品種が見出されました。しかし、これらの品種の抵抗性はいろいろな理由から実用化されるに至らず、野生種であるニコチアナ・グルチノーサが利用されることになりました。野生種はすべてが栽培種と交配できるわけではありませんが、この種はたばことの交配が可能であったために、野生種のもつ抵抗性遺伝子をたばこに移す試みが実行されたのです。その結果、1930年代の終わりになって、最初の抵抗性品種であるHolmes Samsounという品種が育成されました。1940年代初期には、ニコチアナ・グルチノーサに由来する遺伝子よりもたばこの品種の抵抗性遺伝子を利用したほうが良いという意見もありましたが、ニコチアナ・グルチノーサに由来する抵抗性遺伝子は、多くの栽培品種に導入され、実用化されているというのが現状です。

 身近な品種の病害抵抗性が実は野生種に由来するものだというのは、ちょっと意外な感じがしますが、こうした例は他の病害抵抗性の場合にも見られます。

(佐藤昌良)

               

            ニコチアナ・グルチノーサ

 


オリエント種ってどんなたばこなの

 オリエント種とはギリシャ、トルコ、ブルガリアなどのオリエント地方で栽培されているたばこの品種を指し、黄色種やバーレー種と同じように、品種のグループを意味しています。オリエント種はトルコ種と呼ばれることもあり、また、特有の芳香を有することから、英語ではアロマテックタバコと呼ばれることもあります。

 オリエント種は極端に雨の少ない乾燥した条件下で栽培され、また、有機質の乏しい礫混じりの土壌で栽培されるため、一般に草丈が低く、葉も小さいことが特徴です。10アール当たりの植付け本数は8,000本〜20,000本、窒素施用量は2〜3キログラムとされていますので、品種によっては、最大葉長が10センチメートル程度しかありません。収穫葉の乾燥は、黄変期の空気乾燥法 (Air-curing) と固定期の日干乾燥法 (Sun-curing) を組み合わせた方法で行われますが、湿度が低いために脱水が早く、黄色のまま固定されるのが本来の仕上がりです。実際には、暗黄色ないし黄褐色の葉がかなり含まれていますが、上質な乾葉は緻密で弾力があり、樹脂の多い原料が生産されます。乾葉の内容成分から見ますと、窒素やニコチンが少なく、炭水化物が多いという特徴があり、窒素やニコチンが多く、炭水化物が少ない葉巻種やバーレー種とは対照的な性質を持っています。

 オリエント種には、広葉の無柄種、やや細長い葉の無柄種、有柄種などが含まれています。それらの系統的な分類に関する諸説については省略しますが、日本の在来種は、形態等の類似性から、オリエント種と何らかの血縁関係があるのではないかといわれています。なお、オリエント種を原料にした製品たばことしては、ドイツのゲルベゾルテというたばこが有名です。ドイツ語のゲルベゾルテは、「黄色い品種」を意味しています。

(佐藤昌良)

 


病気に強い性質はどうやって調べるの

たばこの品種が或る病気に対してどの程度強いのかを正確に把握することは、たいへん重要なことですし、また、病気に強い品種と弱い品種を交配して、その子孫の中から病気に強いものを選抜する場合にも、病気に対する強さを正確に判定する技術が求められます。

病気に対する強さを判定する方法としては、第一に、たばこを畑に植えて、畑での発病を観察するという方法があります。この方法は、自然の条件で病気に対する強さを調べるという点では重要な方法ですが、思うように病気が出てくれないという場合もありますので、畑の個所数を増やし、複数年次にわたって試験を繰り返さなければなりません。

第二の方法は、主に温室を利用し、病原菌などを人工的に接種して発病させる方法です。このような人工的な検定法では、小面積でできるだけ多数の個体を調べることができるように、多くの場合、小さな苗を用いて検定が行われるようになっています。また、温度条件や接種する病原菌の濃度などに関しても、十分な検討がなされていることはいうまでもありません。これらの方法は、一括して、病害抵抗性検定法と呼ばれています。

病害抵抗性検定法の具体例は多岐にわたり、土壌に起因する病害としては立枯病、黒根病、疫病、根こぶ線虫病、葉の病害としては野火病、赤星病、うどんこ病、ウイルスによる病害としてはタバコモザイク病、キュウリモザイク病、黄斑えそ病などに対して、それぞれ人工検定の方法が開発されています。しかし、虫害に対する抵抗性を人工的に検定する方法は、まだ検討が不十分だといわざるを得ません。また、これらの病害抵抗性検定法は、あくまでたばこの抵抗性を判定するための技術であり、防除薬剤の有効性を判定するために開発された技術ではありません。

(佐藤昌良)

 


たばこにつくアブラムシはどうやって越冬するの

 アブラムシは種類が多く、また、温帯と熱帯とではその生態にも違いがありますが、ここでは、たばこにつく代表的なアブラムシであるモモアカアブラムシについて、温帯での越冬の仕方を見てみることにしましょう。モモアカアブラムシは、キュウリモザイクウイルスやジャガイモYウイルスを媒介する害虫であり、また、たばこ植物上で繁殖し、子孫の集団すなわちコロニーを形成するという特徴をもっています。

 春から初夏にかけてたばこに飛来するモモアカアブラムシは、羽のある有翅型のアブラムシです。たばこに定着すると、胎生虫とよばれる複数の子を産み、さらに子も同じように胎生虫を産みますので、短期間に大きなコロニーが形成されることも珍しくありません。胎生虫の多くは羽のない無翅型のアブラムシですが、有翅型のものもあり、それらは風に乗って他の場所に移動することができます。

ところで、胎生とはどういう意味でしょうか。卵ではなく、親の体内で胎児が形成されることを意味しています。ただし、これらの胎児は、雌雄の交尾によって生まれたものではありません。この時期には、親も子も雌ばかりで、雄はいないのです。

雌だけで子を産む仕組みを単性生殖といい、この仕組みは、短期間に子孫の数を増やすには便利な方法です。しかし、いつまでもこの方法だけで子孫を増やすことはできません。モモアカアブラムシの場合は、秋の終わりが近くなると、有翅型の雄が出現するようになります。一方、有翅型雌虫の一部はモモ、サクラ、ウメなどの植物に移動し、そこで産卵雌とよばれる特別な無翅型の雌虫を産みます。この雌虫が飛来する雄虫と交尾し、受精卵を産み付けます。この場合は産卵であり、先に述べた胎生とは違うことに注意してください。モモアカアブラムシは、この受精卵の形で越冬します。翌年の春になると、受精卵から無翅型の雌虫がふ化し、以後再び単性生殖による繁殖が行われるようになります。その子孫の中にやがて有翅型のものが出現し、たばこその他の作物に飛来してくるのです。

 このように、モモアカアブラムシは、交尾という生物の基本的な行為を織り込みながら、夏に寄生する植物と冬に寄生する植物を使い分けていますので、移住型のアブラムシとよばれています。

(佐藤昌良)

 


塩素の過剰吸収はなぜ有害なの

 塩素はもともと植物にとって必要な元素であり、たばこの生育にも、微量の塩素は欠かすことができません。しかし、たばこの場合には、過剰な塩素はきわめて有害であり、塩素を多量に含む化学肥料や堆厩肥は使用しないことが常識になっています。

塩素はイオンとして水に溶けやすく、また、たばこは土壌中の塩素イオンをよく吸収しますが、その量が限度を超えますと、さまざまな弊害が現われてきます。たばこ中の塩素濃度が極端に高い場合には、葉の縁の部分が上に向かって巻き上がるという特有の症状が見られますが、それほどはっきりした症状が見られない場合でも、葉たばこの色沢が異常になり、吸湿性が高くなります。黄色種の場合は、葉たばこの色が灰色になり、時には黒ずんだ色になることもあります。このような葉たばこは、燃焼性がきわめて悪く、シガレットにして火をつけてみますと、途中で火が消えてしまいます。また、灰の色も白色ではなく、黒っぽいことが特徴で、当然、香りや味も異常なものとなりますので、本来の品質を期待することはできません。

塩素を過剰に吸収した葉たばこはセーライン葉といわれ、異常葉として取り扱われます。したがって、とくに塩素を含む恐れのある堆厩肥については、給水と切り返しを十分に行い、塩素を洗い流してから使用することが肝要です。また、野菜を栽培した畑では、前作で塩素を含む肥料が使用された可能性がありますので、注意しましょう。畑の塩素は降雨によって流れやすい傾向はありますが、野菜の被覆栽培が普及した現在では、必ずしも安全とはいえません。また、黒ボク土壌の場合には、土壌自体の水分保持力が高く、透水性が悪いために、たとえ降雨があったとしても、土壌から塩素が失われる可能性が低いことを知っておく必要があります。

(佐藤昌良)

 


紅葉はなぜ発生するの

 紅(べに)葉とは、黄色種の乾燥終了後に見られる紅色の乾葉を指します。好ましくない香りの特徴をもっていますので、発生が認められた場合には、それらを選別して、正常な葉と区分しなければなりません。昭和20年代には紅葉が多発した時期がありましたが、その後原因が究明され、対策も講じられた結果、現在では紅葉の発生率はかなり低くなっています。しかし、発生率をゼロにすることはできません。その理由は、紅葉が発生する原因と関係があります。

 紅葉は病原菌や気象条件によって発生するものではなく、また、畑のたばこに満遍なく発生するものでもありません。紅葉は、遺伝子が突然変異を起こして変化した特別な個体に限って発生するものです。紅葉の原因が遺伝子の突然変異であるということは、紅葉の性質が遺伝することを意味しています。実際に、紅葉を発生した個体から種子をとりますと、その子孫には紅葉が多発しますので、紅葉の発生率を低く抑えるには、突然変異を起こした個体から種子をとらなければよいということになります。しかし、正常な個体の種子にも僅かながら突然変異が起きることは避けられませんので、紅葉を完全になくすことは不可能だといわざるを得ないのです。

 紅葉の原因となる突然変異とは、一体どのようなものでしょうか。研究の結果からその実態が明らかにされていますので、簡単に紹介しておきましょう。紅葉の成分分析の結果によりますと、葉に含まれるニコチンの大部分がノルニコチンという物質に変化していることがわかりました。ノルニコチンは、ポリフェノールという物質と結合して、紅色の色素をつくります。ニコチンをノルニコチンに変えるようにたばこの遺伝子が変化してしまうこと、それがここで述べた突然変異の正体です。同様の突然変異はバーレー種でも起こりますが、ノルニコチンを含む個体の増加を防止するため、個体毎に成分分析を行ってから採種するなどの対策がとられています。

(佐藤昌良)

 


日本ではどうして色々な品種のたばこが栽培されているの

たばこは品質を重視する作物ですから、気象条件や土壌条件に適した品種を栽培することがきわめて重要です。また、発生する病害の種類についても考えなければなりません。

 実際に栽培されているたばこの種類を見ますと、東北地方から北関東にかけての地域では、バーレー種が栽培されています。この地域は気候が比較的冷涼なうえに、黒ボクとよばれる火山灰土壌が多く、黄色種の栽培にはあまり適しておりません。バーレー種はもともと葉色が淡く、日射の強い暖地で栽培した場合には葉緑素の分解が早まり、早期に葉が白くなる傾向が見られますが、冷涼な地方では葉緑素の分解が遅く、葉を十分に成熟させることができます。また、黄色種に比べて着葉数が多く、黒ボク土壌のような深い耕土にも適応しますので、東北地方のような栽培環境では、黄色種よりもバーレー種を栽培するほうが合理的であるといえます。冷涼な環境下では黒根病が発生し易くなりますので、バーレー種の栽培品種は黒根病に対する抵抗性をもっています。

関東・北陸以西の比較的温暖な地域では、黄色種が栽培されています。しかし、土壌の種類が多く、また、気象条件においても地域差がありますので、環境条件は決して一様ではありません。こうした地域差は、発生する病害についても見られます。実際に栽培されている黄色種の例として、北陸・山陰地方や中・四国山間部を中心に栽培されている品種エムシーと四国および南九州の平野部を中心に栽培されている品種コーカーを比較してみましょう。エムシーはやや低温の条件で発生し易い黒根病に抵抗性をもち、コーカーは高温環境下で多発する立枯病や疫病に抵抗性をもっています。エムシーの産地では、立枯病の発生も見られますが、それ以上に黒根病発生の危険が高いと考えてよいかと思います。四国や南九州の平野部になりますと、黒根病発生の恐れはほとんどありませんので、黒根病に抵抗性をもっていないコーカーの栽培が可能になるのです。これは、産地の条件と品種の特性の関係を示す一例に過ぎませんが、複数の品種が必要である理由を理解していただけるものと思います。

(佐藤昌良)

 


若返るっていいことなの  

 たばこの栽培には肥切れのよい畑が適しているといわれるように、心止め後の窒素の吸収は、低いレベルに抑えられることが理想であるとされています。しかし、収穫期の後半に窒素の再吸収が起こり、ある程度黄化が進んだ葉で急に緑色が回復するという現象が時折見られます。これが、たばこの若返りとよばれている現象です。若返りを起こす原因にはいろいろなケースがあり、単純ではありませんが、いずれにしても、成熟途中の葉が窒素を多量に吸収することは好ましいことではありません。  
 
 一般にたばこの成熟期には、光合成の産物である炭水化物が増加し、たんぱく質が減少します。この傾向はとくに黄色種の場合に顕著で、炭水化物が豊富であることは、黄色種の香味成分が形成される上で、たいへん重要なことであると考えられています。炭水化物は炭素と水素と酸素だけを含む化合物ですが、たんぱく質はこれらの元素の他に窒素や硫黄を含み、植物の根で吸収された無機態窒素は、葉に移動したあと、速やかにたんぱく質などの合成に使われる仕組みになっています。その際、植物はいろいろな炭水化物をたんぱく質合成の材料として利用しますので、たんぱく質の合成が盛んな時期には、炭水化物はそれほど増加しません。たばこの成熟期に炭水化物が増加するのは、窒素があまり供給されずたんぱく質の合成が抑制されるからなのです。ところが、若返りを起こした葉の場合は、一時的に窒素吸収が旺盛になるためそれまでに蓄えられてきた炭水化物が減少し、たんぱく質が増加することが確かめられています。
 
 このように、たばこの若返りは、成分の面から見ても好ましい変化ではありませんので、いろいろな角度から原因を究明し、若返り防止の対策を講じることが大切です。

(佐藤昌良)

 


若返りはどんなときに起きるの 

 若返りは、順調な成熟経過を辿っているたばこが何らかの原因で窒素を再吸収する現象です。したがって、未熟堆肥の投与などによって、摘心以後の肥切れが悪く、何時までも成熟の徴候が現れないいわゆる晩作たばことは区別して考える必要があります。 
 
 畦面被覆が導入される以前のたばこ栽培では、追肥が一般的に行われていたこともあり、たばこの成長期に土壌水分が少ない場合には、肥料が残ったまま成熟期に入り、成熟期の降雨で一気に若返るということがしばしば見られました。 
 
 畦面被覆栽培が一般化した現在では、土壌水分の不足に起因する養分の吸収遅れということはほとんどありませんが、被覆された畦の中で水が下から上に移動する際、それに伴って肥料成分とくに窒素が畦の表層に集積するという現象が見られます。この現象は火山灰土壌よりも鉱質土壌で顕著に見られますが、このような状態で成熟期に入り、畦表面に集積していた窒素が降雨によって吸収されると、若返りの現象となって現れます。このような若返りは、被覆の除去時期が遅れた場合に起こりやすいので、被覆の除去は適切な時期に行うことが大切です。 
 
 一方、火山灰土壌の場合、とくに、厚層黒ボクといわれるような厚い層を持つ土壌では、地下60センチメートル付近から下の深層に窒素が集積している場合があります。火山灰土壌では、たばこの根が実際にこのような層まで達することもありますので、この窒素の吸収によって若返りが起こり得ます。このような若返りの防止対策としては、畦の大きさを工夫し、根が深層まで届かないようにすることが一つの方法です。

(佐藤昌良)

 


たばこの花の色はピンクだけなの  

 たばこの栽培種にはルステイカ種とタバカム種の二種類があり、ルステイカ種の花の色は黄緑色ですが、タバカム種のほとんどの品種は淡いピンク色の花を咲かせます。しかし、タバカム種の品種のなかには紅色や白色の花を咲かせるものもあり、すべてがピンク色というわけではありません。紅色や白色の花を咲かせる品種はごく少数しかありませんが、Red Russian という品種は紅色の花を咲かせ、TI 245 という品種は白色の花を咲かせます。また、日本の沖縄で蒐集された品種の中にも、白色の花を咲かせるものがあります。この TI 245 という品種は、アメリカ農務省の探検隊によってメキシコで発見された品種ですが、日の長さが長いほうが早く開花する性質を持っています。この性質は長日性と呼ばれ、たばこではとても珍しい性質なのですが、沖縄の白色花の品種も同じ性質を示します。これは単なる偶然かもしれませんが、遺伝学的には、興味ある現象だといえるでしょう。  

 三種類の花の画像を掲載しておきます。これらの画像は日本たばこ産業(株)葉たばこ研究所の田島智之氏から提供されたものです。

(佐藤昌良)

     

 


ウイルス病を防ぐ薬剤はあるの  

 ウイルスの研究を始めた人達の誰しもが考えるのは、抗ウイルス剤を開発することだといわれています。しかし、残念ながら、植物のウイルス病に関しては、まだ万能薬は開発されていないというのが現状です。とくに、一度ウイルスに感染してしまった植物を治療する薬剤は、まったく実用化されておりません。
 一方、ウイルスの感染を予防する薬剤については、いくつかの商品が市販されています。市販されている感染予防剤を見ますと、天然物やその抽出物であることが特徴で、これまでに、海藻のもつ成分、椎茸の培養ろ過液、こうじ菌由来の物質などが商品化されています。
 アメリカのある州のたばこ栽培指導書には、苗床の前にミルクを入れたバケツを用意して、必ず手を洗うようにと書かれていましたが、これは、ミルクに含まれるカゼインという物質がウイルスの粒子を吸着し、植物への感染を防止する効果があるからです。
 このように、ウイルスの感染防止剤にはいくつかの製品があり、ミルクで手を洗うという方法もありますが、これらはタバコモザイクウイルスのような接触によって感染するウイルスを対象にしたものであり、キュウリモザイクウイルスや黄斑えそ病ウイルスのように、ウイルスがアブラムシによって感染する場合には、効果が劣ることを忘れてはなりません。
  
 最近、全国農村教育協会から、「植物のウイルス病物語」(都丸敬一著)という本が出版されました。興味のある方には、参考になると思います。

(佐藤昌良)

 


 

立枯病に強い黄色種はどうやって作られたの

 たばこの立枯病は、Pseudomonas solanacearum という土壌中の病原細菌が寄生して起こる病害です。高温環境下で発生しやすく、とくに黄色種の産地では、最も重要な病害と考えられてきましたので、現在では、立枯病に抵抗性を示す黄色種の品種が数多く育成されています。しかし、1930年代以前には、米国にも、立枯病に強い黄色種は全くありませんでした。日本の在来種のなかには、大だるまなど、立枯病に強い品種がありますが、戦前に行われた黄色種との交配試験では、品質上の問題が解決されず、栽培可能な黄色種の育成は、不成功に終わっています。  
 では、現在の立枯病抵抗性の黄色種は、どのようにして作られたのでしょうか。米国での立枯病抵抗性育種素材の探索は、1904年に開始されましたが、黄色種との交配に使用できる適当な材料は発見されませんでしたので、育種計画はしばらく中断されていました。しかし、1934年になって、米国の農務省は、メキシコや南米に研究者を派遣し、育種素材の徹底的な探索を行うことにしたのです。その結果、1,000を超えるたばこの系統が収集され、コロンビアのトリマというところで収集されたTI 448という系統が、有望な系統として選抜されました。TI 448の中から立枯病とタバコモザイク病に強い1個体を選び、子孫を増殖したものがTI 448 A とよばれる系統です。この系統は、黄色種に似た形態をもっていましたので、黄色種との交配に用いられ、その後、多くの立枯病抵抗性黄色種が育成されるようになりました。抵抗性の黄色種が実際に栽培されたのは、1940年代の半ばからですが、現在の黄色種の立枯病抵抗性は、すべてこのTI 448 A に由来しています。この実例から、植物遺伝資源の大切さを学ぶことができるのではないでしょうか。  
 なお、育成された立枯病抵抗性黄色種のなかには、抵抗性の程度が高度ではなく、中程度〜低度というものもありますので、実際の栽培にあたっては、耕種的な防除対策をおろそかにしないことが大切です。

(佐藤昌良) 

     
    TI448A

注)TIというのは、Tobacco Introduction の略で、米国農務省が蒐集したたばこ植物であることを示します。

 


 

遺伝子組換えはたばこでもできるの    

 たばこという植物は、バイオテクノロジーの研究では、最も広く使われている植物の一つです。たばこは、遺伝子組換えが登場する以前の時代から、組織培養や細胞培養の研究に用いられ、培養に関する豊富なデータが蓄積されていますので、遺伝子組換えの時代になってからも、頻繁に使用されています。 
 遺伝子組換えという技術は、ある生物から分離した単一の遺伝子(単離遺伝子)を他の生物に導入して働かせることを可能にする技術ですが、一つの細胞に異種の遺伝子を入れることに成功したとしても、その細胞から植物体を再生できなければ、研究の成果は、著しく制限されたものになります。その点、たばこを材料にしますと、培養によって一つの細胞から植物体を容易に再生できるという利点があり、これが、たばこが使用される最大の理由だといえるでしょう。 
 たばこを使って行われた遺伝子組換えの実験例は非常に多く、そのすべてを紹介することは不可能ですが、実験例ですから、実際のたばこ栽培には全く無関係なものも多数含まれています。ホタルの遺伝子を導入した「光るたばこ」などというのはその代表的なものですが、すべてがこのような実験的なものばかりではありません。これまでの手法では育成困難とされてきたキュウリモザイク病抵抗性のたばこが遺伝子組換えの手法によって作られたことは、この技術が産業上も有用な技術であることを示しています。また、今後は、たばこ自身のもつ遺伝子が単離され、個々の遺伝子の働きが試験管内で詳しく調べられるようになると、品種改良事業にとっても、大きなメリットがあると考えられています。すでに、タバコモザイク病抵抗性や低ニコチン性に関与する遺伝子が単離されていますので、今後の研究の進展が注目されます。

(佐藤昌良)

 


 

たばこのわき芽はなぜ何度も生えてくるの  

 たばこには頂芽優勢という性質があり、幹が盛んに生長している状態では、わき芽はほとんど生長しないのが普通です。しかし、この状態でも、葉の基部には、将来わき芽になる構造がすでに形成されていて、ただ、その生長が抑えられているに過ぎません。葉の基部を解剖して、顕微鏡で観察しますと、小さな芽の形をしたものが2〜3個観察されます。また、2〜3個の芽の大きさには違いがあり、1次芽、2次芽、3次芽という順位があることがわかります。4次芽を観察したという報告もありますが、これはたいへん稀な現象で、通常は2次芽あるいは3次芽までが観察されます。  幹に花が咲き、心止めを行いますと、頂芽優勢の抑制効果がなくなるため、わき芽の生長が始まります。ただし、最初に伸びてくるのは1次芽から発達したわき芽であり、2次芽や3次芽も同時に勢いよく伸びてくるということはありません。1次芽の生長が頂芽優勢と同じ効果をもち、2次芽、3次芽の生長を抑制しているからだと考えてよいでしょう。しかし、1次芽を除去すると、また頂芽優勢の抑制効果がなくなりますので、今度は2次芽の生長が盛んになり、2次芽を除去すると、3次芽が伸びてくるという繰り返しになるわけです。  

(佐藤昌良)

 


たばこはどんな土が好きなの  

 たばこの栽培には、通気性、透水性がよく、肥切れのよい畑が適地であるとされています。通気性、透水性がよいことは、植物の生育を支える根の発達を促し、硝酸化成菌のような微生物の働きにも良い影響を与えます。重粘土壌や排湿不十分な水田あと地などでは、通気性、透水性の面で問題が起こりやすくなりますので、堆肥の投与や排水、乾田化対策を実施することが必要になります。
  
 一方、肥切れとは、たばこの心止めを境にして土壌からの窒素の供給がとまることをさし、肥切れのよい畑が適地であるというのは、心止め後における過剰な窒素の供給が有害であることを教えています。たばこは、肥料として与えられた窒素だけを吸収するのではなく、土壌由来の窒素も吸収しますので、肥切れとの関係では、土壌の潜在的な窒素供給能力が問題になります。この点から見ますと、火山灰土壌の一種で黒ボクとよばれる土壌は、一般に窒素供給能力が高く、水分保持力も高いという特性があるため、窒素の過剰吸収が起こりやすく、その意味では、たばこに好まれる土であるとはいえません。反対に、海岸に近い砂地の畑では、有機質が極端に少ないために、土壌自体の窒素供給能力が低く、肥切れが早くなり過ぎるという危険があります。したがって、たばこ栽培の最適地であるとはいえませんが、堆肥の投与を継続すれば、良質な葉たばこを生産することも可能になります。  
 
 結論として、たばこが好きな土壌は、非火山灰系のいわゆる鉱質土壌の畑であり、砂地と粘土質の中間にある土壌であるといえます。このタイプの土壌は、一般に通気性が良く、窒素供給能力も中庸であるため、地力を保持しながら、なおかつ、肥切れのよい性質を持たせることができます。

(佐藤昌良)

 


たばこの花はなぜ摘み取ってしまうの

 たばこの花のつき方は、植物学で集散花序とよばれる形式に属し、そのままにしておくと、花枝が伸びて新しい蕾がつぎつぎに形成されますので、花が終わるまでには、相当の日数を要します。一株当たりの花の数については、400程度という報告もありますが、800近い花を観察したという記録もあります。しかし、実際の栽培では、数輪から5、6輪の花が開花したところで茎ごと上部を摘除し、それ以上、花を咲かせることはありません。この作業は「心止め」とよばれていますが、単に、花は不要だから摘除するという作業ではなく、葉を成熟させることと密接な関係があります。

 たばこの葉の成熟期には、光合成の産物であるでんぷんが蓄積し、ニコチンの含量も増加します。また、たばこの香りにとって重要な化合物であるテルペン類が増加するなどのさまざまな変化が起こります。しかし、花を摘除しないでいると、葉の内容成分が開花のエネルギーとして消費されてしまいますので、こうした変化が起こりにくく、葉は未熟な状態にとどまり、やがて枯れあがるという状況になります。植物体内の物質がはじめに作られた場所から別の場所に移動することを転流といいますが、心止めには、不要な部分への物質の転流を防止し、葉の内容成分を充実させるという意味があります。

さらに、たばこの心止めには、もう一つの重要な意味があります。植物の成長する部分では、成長ホルモンが盛んにつくられていて、ほかの部分にも影響を及ぼしています。たとえば、オーキシンという成長ホルモンは、根で行われるニコチンの合成を抑制し、オーキシンを除去すると、ニコチンの合成に関与する遺伝子が活性化するといわれています。このようなことから、たばこの心止めには、成長ホルモンの影響を取り除き、植物の生理的な状態をそれまでとは違った方向に導くという意味があると考えられます。

(佐藤昌良)

 


葉たばこには味や香りのほかにどんな品質や特性が大切なの

 味や香りのほかに葉たばこの品質として重要視される特性にはさまざまなものがあり、それらは葉たばこの種類によって異なりますが、一般的には、葉の色沢や組織のち蜜さ、ニコチン含量などが重要視されます。ニコチン含量は、喫煙感を左右する重要な特性ですから、葉たばこの種類や葉分け(下葉、中葉、上葉の区分)に応じた適正な範囲にあることが必要です。

葉の組織の良否は、ち密、もろめ、粗剛などといった言葉で表現されますが、畑での作柄や収穫時期の適否を反映し、味や香りの良否を判定する指標にもなりますので、葉たばこの品質を肉眼で評価する際には、葉の色沢とともに、最も重要視される特性であるといってよいでしょう。組織の外観は葉たばこの種類と葉分けによって異なり、的確な判断を下すには長年の経験を要するといえますが、もろ過ぎるもの、薄肉でぺらぺらした感じがするのもの、肉厚でごわごわした感じがするものなどは、良質とみなされることはありません。

シガレット原料の場合、葉たばこは刻みとして利用されますので、その際には、味や香りのほかに、刻みの物理的な特性が重要視されます。刻みの特性としては、燃焼性が重要であることはいうまでもありませんが、そのほかに、膨こう性という特性が重要視されます。膨こう性というのは、刻みのかたまりを一定の力で圧縮したときの刻み単位重量当たりの体積を表わし、シガレット一本当たりの重量やタール生成量に関係します。膨こう性や燃焼性という特性は、葉たばこの内容成分や比重あるいは組織の空隙率(細孔率)と密接に関連していますので、組織の構造や厚さが異常な葉たばこでは、刻みの特性も、正常な範囲を逸脱したものになる可能性が高くなります。

(佐藤昌良)


タバコにはどんな種類があるの

 タバコといっても実に多くの種類があります。南アメリカから世界に広がったタバコは、各地の気候や土壌に順化し、その土地の人々の嗜好、製品形態や利用法に合わせて選抜されてきました。こうして、同じ“種”の植物とは思えないほど、外観的にも香喫味的にも、多種多様な種類に分化してきました。現在では、黄色種、バーレー種、オリエント種、葉巻種、各地の在来種に大別されています。

黄色種は、火力を利用して葉を黄色に乾燥する種類で、19世紀前半に米国で、乾燥室の温度を上げ過ぎて葉を黄色くしてしまったことから生まれました。糖分が多く香喫味が豊かなため、シガレットの主原料となっています。
  バーレー種は、19世紀中ごろに米国で発見された突然変異のもので、空気乾燥する種類ですが、香料の吸収性や燃焼性が良いため、シガレットの副原料となっています。
  オリエント種は、その名のとおりオリエント地方で栽培され、特有の香りがある種類で、シガレットの原料とされています。
  葉巻種は名前のとおり葉巻の原料で、ふつう堆積発酵して用いられます。また、在来種とは各地で独自に栽培されてきた種類で、品種も、特徴も、用途も、多種多様です。

(参考文献:川床邦夫著「中国たばこの世界」(東方書店))

 

 


たばこの楽しみ方には色々あるの

嗜好品としてのたばこは、吸う、嗅ぐ、噛むに大別されます。

“シガレット(紙巻たばこ)は、手軽に楽しめるため、現在世界のたばこの主流になっています。シガレットの歴史は新しく、18世紀中ごろに始まりましたが、19世紀中ごろのクリミア戦争中に、兵士たちが大砲の火薬を包む薬包紙で巻いて吸ったのがきっかけで広く普及したといわれています。一口にシガレットといっても、ヴァージニア型、アメリカンブレンド型、オリエント型、ブラック型、メントール型、さらに朝鮮人参や漢方薬を混ぜたものなど様々です。インドを中心とするビディたばこは、たばこの葉を砕いて粒状にし、リュウキュウコクタンの木の葉で包んだもので、インド流のシガレットといったところです。

“手巻きたばこ”は、刻みたばこを巻紙やトウモロコシの皮や新聞紙などで巻いて吸うもので、世界各地で見られます
 “マホルカたばこ”は、もともとロシアのもので、ルスティカタバコの葉を粒状にして、新聞紙などで巻いて吸うものです。
 “葉巻(シガー)”やチェルート(両切り安葉巻)“は、たばこの葉を発酵させて巻いたものです。キューバのハバナ葉やフィリピンのマニラ葉などは、高級な上巻葉として知られています。チェルートは、世界各地で見られます。
 “パイプたばこ”や“キセルたばこ”は、喫煙道具から名付けられましたが、キセルというのはもともとカンボジア語からきており、いわば東南アジア型のパイプといったところです。水を通した煙を吸う“水ギセル”にも、いろいろなタイプがあります。
 “噛みたばこ”は、たばこをやや幅広く刻んで噛むものです。東南アジアでは、ビンロウや石灰を混ぜて、キンマの葉で包んで噛むのが普通です。
 “嗅ぎたばこ”は、たばこの葉を粉にして鼻から吸い込むもので、一時は欧州や中国で大流行しました。今でも、欧米、インド、中国などの一部で利用されています。

(参考文献:川床邦夫著「中国たばこの世界」(東方書店))

 


 

タバコはどんな仲間の植物なの

 タバコは、トマト、ジャガイモ、トウガラシ、ペチュニアなどと同じくナス科の植物です。ここで植物の分類に少しだけ触れておきましょう。“種”が集まって“属”になり、属が集まって“科”というグループになります。この種と属との間に節というグループを置くこともあります。タバコの場合は、ナス科タバコ属ジェニュイン節タバコ種ということになります。こうして、“ナス科植物”とか“タバコ属植物”という言い方をするわけです。

ところで、タバコ属には種が67ほどあります。栽培種がタバコとルスティカタバコの2種、野生種が64種、鑑賞用“花タバコ”の園芸種が1種です。野生種の分布は、南アメリカの35種を中心に、オーストラリアとその周辺の島々に20種、北アメリカに8種、アフリカに1種となっています。

(参考文献:川床邦夫著「中国たばこの世界」(東方書店))

 


 

 タバコの原産地はどこなの

 

 タバコの原産地については、かつてはヨーロッパ説、アフリカ説、中国説などもありましたが、最近では南アメリカであることが明らかとなっています。その根拠は、ロシアのヴァヴィロフのいう「遺伝子の多様性中心説」、米国のグッドスピードらによる「タバコ属野生種の分布」、「タバコの祖先種の研究」などにあります。
 ここで、タバコという植物の起源について簡単に触れておきましょう。タバコはシルベストリス(N. sylvestris)という野生種を母方の祖先種とし、トメントシフォルミス(N.tomentosiformis) などトメントーサ節の野生種を父方の祖先種とする“複二倍体”です。この複二倍体とは、交雑した染色体がそのまま倍加したもので、両親の異なる形質をそのまま受けついでいます。また、これら母方と父方の祖先種の分布からタバコ誕生の地は、アンデス山脈の東斜面、ボリビアからアルゼンチン最北部のあたり、標高約1500メートルの地と考えられています。
 さて、タバコ属には、もう一つの栽培種、ルスティカタバコがあります。これもパニクラータ(N. paniculata)とウンドゥラータ(N. undulata)という野生種を祖先種とする複二倍体で、これら両祖先野生種の分布が重なるアンデス山脈の西側、ボリビアないしペルーあたりの標高約3000メートルの地で誕生したと考えられています。タバコと比べると、ルスティカタバコは早生で、ニコチン含量が高く、香りと味はあまり良くありません。このため、世界各地でルスティカタバコはタバコに置き換えられてきました。現在、ルスティカタバコは、ロシア、インド、中国などの一部の地域で栽培されているにすぎません。

(参考文献:川床邦夫著「中国たばこの世界」(東方書店))

 


 

南米原産のタバコがなぜオーストラリアやアフリカにも分布してるの

 これは大変興味深い問題です。これにはドイツ人のウェゲナーが1912年に発表した「大陸移動説」がからんでいます。南アメリカ起源のタバコ属の祖先種は、大陸の移動やその他の現象をうまく利用して、北アメリカ大陸、オーストラリア大陸、アフリカ大陸に渡り、それぞれの大陸で固有の種に分化したと考えられています。オーストラリア大陸へは、原産地の南アメリカ大陸から、当時は緑の大地であった南極大陸を経由して渡ったともされています。こうして、タバコ属植物は大陸移動説を証明する植物のひとつであるといわれています。

(参考文献:川床邦夫著「中国たばこの世界」(東方書店))

 



タバコは最初、どのように利用されたの

 タバコは初めは儀式用に利用されたものと考えられています。というのは、メキシコを中心とするアステカ文明では太陽の祭壇上にタバコが添えられていましたし、ほとんど至るところで宗教的に用いられていました。最初は、香を焚く儀礼で、乾燥した葉を燃やして、その煙を鼻から吸い込んでいました。次に、煙を鼻で吸い込むためのパイプが現れました。それが、葉を詰めて火をつけ、口で吸うパイプに変わったようで、多くのパイプが遺物として残っています。一方、“葉巻”やたばこの葉をトウモロコシの皮で包んで吸う“巻きたばこ”もありました。タバコは儀式の中で、あるいは楽しみとして、あるいは霊薬として用いられてきたわけです。

(参考文献:川床邦夫著「中国たばこの世界」(東方書店))

 


 

野生種タバコも利用されていたの

 南アメリカでも住民によって、一部では野生種タバコも利用されていました。チリではマプチェ族がアクミナータ(N. acuminata)を利用していました。アルゼンチンではモコビ族がノクティフローラ(N. noctiflora)の根を乾かして喫煙していました。また、民間治療やもぐり治療などでの野生種の利用例は多く、グラウカ(N. glauca)やウンドゥラータ(N. undulata)は、いろいろな痛みの治療に使われ、パニクラータ(N. paniculata)は、家庭医療用に使われているといいます。このほか、グラウカが、庭木や街路樹に用いられているのが各地で見られ、ボリビアでは、シルベストリス(N. sylvestris)を鑑賞用に栽培しているのが見られます。北アメリカでも、先住民はアテヌアータ(N. attenuata              などの野生種タバコを、噛んだり、嗅いだり、吸ったりしていましたが、彼らの神々も喫煙していて、喫煙は半宗教的な慣わしでした。そして、オーストラリアでも、先住民たちは、自生するエクセルシオール(N. excelsior)などの野生種タバコを、噛みたばことして利用していました。

(参考文献:川床邦夫著「中国たばこの世界」(東方書店))

 



たばこの種子はどうしてあんなに小さいの

  たばこの種子は卵型で、その長さは 0.60.8 ミリメートル程度ですから、たいへん小さな種子だといえます。「ケシ粒」などといわれて、小さなもののたとえにされるケシの種子でも、1 ミリメートル前後の長さがありますので、たばこの種子はそれよりもさらに小さいということになります。しかし、コチョウランなどは、まるで粉のような種子をつけますので、たばこの種子が植物の種子のなかで最小というわけではありません。一方、大きな種子の例としては、10 数センチメートルもあるヤシの種子があります。このように、植物の種子には、植物の種類によって大きさが著しく異なるという特徴があります。

植物の種子は、花が咲き、おしべの花粉がめしべについてできるということは誰でも知っています。めしべの基部にある少し膨らんだところを子房といい、このなかに種子ができます。稲や朝顔のような植物でも同じですが、稲では、ひとつの花からひとつの種子しかできません。朝顔の場合は、6 個の種子ができます。ところが、たばこでは、この数が非常に多く、およそ 1,3001,500 程度の種子ができます。子房のなかには、将来種子が着生するための胎座とよばれるものがありますが、これがぎっしりと並んでいるところを想像してください。このように、たばこはひとつの花からたくさんの種子を生産するという特徴があり、そのかわりに、ひとつひとつの種子はたいへん小さなものになったと考えることができます。

(佐藤昌良)

                

 


たばこの畦はどうしてあんなに高いの

 たばこ畑の畦の高さは25cmから30cm以上のものまでありますので、たしかに、ほかの作物ではあまり見かけない畦の高さであるといえます。かつてのたばこ栽培では、植付け時の畦の高さは低く、土寄せを繰り返して畦を高くしていくという方法がとられていました。しかし、現在では、はじめから畦を高くするいわゆる高畦栽培法が一般に行われています。降雨の多いわが国では、もともと土壌が過湿になりやすく、下位葉(幹の下のほうにつく葉)の枯れ上がりが多いという問題がありましたが、高畦栽培法は、これに対処するための技術として昭和30年代に開発され、産地に普及しました。高畦がなぜ下位葉の枯れ上がり防止に役立つのか、その理由を考えてみましょう。

 たばこの葉は、下位葉から上位葉に向かって順次収穫していきますが、ある時期を見れば、下位葉は古い葉であり、上位葉は新しい葉であるということができます。一方、根のほうにも古い根と新しい根があり、苗の根から発達した基本的な根は基本根とよばれ、日数がたって幹の下部から発達してくる新しい根は不定根とよばれています。また、幹には通導組織というものがあり、葉と根をつなぐ役割を果たしていますが、研究の結果から、下位葉は基本根に、上位葉は不定根につながっていることが明らかにされました。このことから、下位葉を充実させ、枯れ上がりのないものにするためには、基本根を十分に発達させることが不可欠であり、そのためには、移植時の畦を高くすることが必要であると考えられたのです。実際に、高畦栽培では、水分の過剰に悩まされることが少なく、また、土壌の温度もやや高くなりますので、基本根がよく発達することが確かめられています。

 昭和30年代に高畦栽培法が導入されてから、わが国のたばこ栽培技術は大きな変革の時代を迎えることになりました。マルチフィルムによる被覆栽培法の導入や施肥法の改良さらには作業機械の開発とあいまって、良質葉の生産と労働時間の短縮が図られるようになったのです。高畦栽培法の導入は、こうした一連の技術革新の先駆けであったといえるでしょう。

(佐藤昌良)

 


 

畑のたばこの葉の表面がネトネトしているのはなぜなの

  たばこの葉の表面には、細かい毛のようなものがたくさん生えています。これは毛茸(もうじょう)とよばれていますが、長さはおよそ 0.3 ミリメートルです。先がとがった形のものもありますが、多くは先端に丸い球のようなものがついていて、この部分は3〜4個程度の複数の細胞で構成されています。この球のような部分の細胞は、専門用語では腺細胞とよばれ、腺細胞をもつ毛茸は腺毛とよばれています。たばこの葉の表面がネトネトしているのは、これらの腺細胞が粘り気のある物質を分泌しているからです。たばこ畑で仕事をしていると、いつのまにか作業衣が黒くよごれてくることがありますが、たばこの葉のヤニがついたなどといわれます。しかし、腺毛から分泌される粘り気のある物質が黒い色をしているわけではありません。この物質は透明で、むしろ無色に近いといってよいでしょう。作業衣のよごれが黒いのは、この物質のほかに、腺毛そのものが剥脱して付着し、いろいろな化学反応を起こした結果だと考えられます。

 ところで、腺毛の存在は、たばこにとってどんな意味があるのでしょうか。研究の結果、分泌される物質は、テルペン化合物とよばれる一群の化合物であることがわかっています。これはたいへん重要な化合物で、たばこ葉の乾燥中に、たばこの香りを形成するさまざまな物質に変化すると考えられています。いいかえると、腺毛がなければ、たばこ特有の香りは得られないといっても過言ではありません。

(佐藤昌良)

                          

       腺細胞から油滴状の物質を分泌する腺毛
  (油滴状物質の一部は、柄の部分を伝わって下方に流れ落ちている。)


 

ニコチンを含む植物はたばこだけなの

ニコチンといえばたばこ、たばこといえばニコチンというくらい、ニコチンはたばこと結びつけて考えられています。しかし、ニコチンを含有する植物は、たばこだけではありません。栽培されているたばこと同じ仲間であるタバコ属の植物には、必ずニコチンが含まれていますし、オーストラリア中央部に住むアボリジニーたちが”噛みたばこ”として利用しているドゥボイシア属植物がニコチンやノルニコチンなどのアルカロイドを含むことはよく知られています。また、ヒカゲノカズラの仲間、スギナ、オオトウワタなどにもニコチンやノルニコチンが含まれているといいます。

なお、タバコ属と同じナス科の植物すなわちトマト、ナス、バレイショ、ピーマンなど身近の作物にも、ごく微量ながらニコチンが含まれています。しかし、おおまかにいえば、たばこに含まれるニコチンの10,000 分の 1 程度であるといってよいでしょう。したがって、通常はまったく問題にされることはありません。ただ最近は、喫煙者が吐き出すたばこの煙や副流煙を非喫煙者が吸い込むいわゆる受動喫煙ということが問題視されるようになり、非喫煙者の尿や血液に含まれるごく微量のニコチン(あるいはその代謝産物であるコチニン)を測定する研究が多くなりました。しかし、この場合、微量のニコチンは受動喫煙によるものではなく、トマトやナスなどの食物に由来するものであるという可能性がありますので、その点を究明するための研究がすすめられています。

(佐藤昌良)

        
     
ニコチンの立体構造模型(白:水素、黒:炭素、青:窒素)
     (財団法人喫煙科学研究財団提供)

 


 

乾燥中にたばこの中で何が起きてるの

 

 たばこの乾燥中に起きる変化のなかで一番わかりやすいのは、葉の色の変化ではないでしょうか。緑色がなくなり黄色になりますので、乾燥中のこの時期は、黄変期とよばれています。黄変期の温度は比較的高く(3637℃)、葉の色の変化は、葉の中で葉緑素分解酵素が働き、緑色の色素が分解されることによって起こります。
 たばこの乾燥中に起きるもうひとつの重要な変化は、葉の細胞内に蓄えられているたんぱく質やでんぷんという巨大な分子が分解されることです。たんぱく質というのは、アミノ酸という物質が一列に手をつないだもので、アミノ酸の数はさまざまですが、何百ものアミノ酸が手をつないでいると考えてください。でんぷんも同じようにたくさんのブドウ糖分子が手をつないだものです。このような巨大な分子は、乾燥によって完全になくなるわけではありませんが、その量が減り、逆にアミノ酸や糖が増えることによって、香味のよい良質なたばこが得られます。
 たばこの香味の形成という点では、たばこの葉の表面に分泌されるテルペン化合物の変化にも触れなければなりません。この化合物は、葉の表面の毛茸から分泌される粘り気のある化合物ですが、その主成分は、乾燥中に 1/3 1/4 に減少することが知られています。これは、テルペン化合物が他の物質に変化していることを示し、この変化によって、たばこらしい香りを形成するさまざまな物質が作られると考えられています。
 このように、たばこの乾燥というのは、単に水を除くための作業ではなく、たばこの香味を作り出すプロセスであるといえます。

 

ちょっと脱線:皆さんは「すだち」という柑橘をご存知のことと思います。皮は緑色が濃いほど良しとされ、皮の緑を保つために高温で保存されます。低温にあうと黄化が始まるからですが、たばことは逆だと思いませんか? たばこの葉は、低温ではなかなか黄化してくれません。このことから、植物の葉緑素分解酵素にもいろいろな種類があり、好適な温度が必ずしも同じではないことがわかります。たばこの葉緑素分解酵素が「すだち」の皮のものと同じであったとしたら、たばこの乾燥もたいへんやりにくいものになったであろうと思います。

(佐藤昌良)

 


 

黄色種とバーレー種で葉たばこの色が違うのはなぜ

 

乾燥を終了した葉たばこをみると、黄色種は黄色で、バーレー種は褐色です。なぜこのような違いがあるのかを理解するには、それぞれの乾燥方法の違いについて考えてみなければなりません。

黄色種の収穫葉は、加温と送風が可能な乾燥機のなかで乾燥され、バーレー種の収穫葉は、遮光されたビニールハウスなどで乾燥されます。バーレー種の乾燥法は、温度や湿度の人為的な制御がそれほど厳密ではありませんので、より自然に近い乾燥法であるといってもよいでしょう。乾燥終了までの日数が長く、また、葉の中の水分も、乾燥の後期まで比較的高い状態に保たれるという特徴があります。

乾燥法の違いによって葉たばこの色が異なるのはなぜでしょうか。収穫したたばこの葉には、葉緑素とよばれる緑色の色素と黄色の色素の両方が含まれています。乾燥の初期には、葉緑素分解酵素の働きによって、緑色の色素が急激に減少しますが、黄色の色素は分解されにくく、そのために、葉が黄色に見えるようになります。黄色種の乾燥法では、このあと、徐々に温度を上げながら葉の水分を除く操作にはいりますが、これは、葉の中で化学的な反応が余分に進行するのを防ぐためであると考えてください。これに対して、バーレー種の乾燥法では、葉の水分が保持されるため、化学的な反応がさらに進行します。この段階で重要な役割を果たすのは、ポリフェノールとよばれる化合物で、酵素の働きによって酸化され、さらにたんぱく質などと結合して褐色の色素を作り出します。これが、バーレー種の葉たばこが褐色になる理由なのです。

このように、葉たばこには乾燥の方法が異なる品種のグループがあり、いろいろなタイプの原料が生産されますが、それらを組み合わせてブレンドしたものが製品たばこであるということをご理解いただきたいと思います。

(佐藤昌良)

 (黄色種)         (バーレー種)

 


 

たばこの害虫はたばこを食べてなぜ平気なの

 

 たばこの粉末やニコチン製剤は、古くから殺虫剤として使われてきましたので、ニコチンが害虫に対して毒性をもっていることは明らかです。また、ガス状のニコチンや水に溶かしたニコチンを害虫にかけると害虫が死ぬという実験からも、ニコチンの毒性を確認することができます。

 では、たばこの葉を食害する害虫の場合はどうでしょうか。餌となるたばこの葉は虫の消化管を通り、体外に排出されますが、消化管からのニコチンの吸収がきわめて少量であれば、害虫にとってほとんど無害であるといえます。実際に、たばこの葉を食害する虫の場合、消化管からのニコチンの吸収はほとんどないことがわかっていますが、その理由を考えてみましょう。たばこの葉のニコチンは、大部分が有機酸と結合した形で存在しています。ガス状ニコチンのような遊離した形態のニコチンではないので、簡単には体内に吸収されません。もうひとつの可能性として、虫の消化管に共生している微生物が、ニコチンが吸収されないように、何らかの役割を果たしているという説があります。これについて詳しく紹介することはできませんが、これからの研究を注目したいと思います。

 それでは、たばこの葉を食べる害虫は、まったく生命の危険を冒していないと考えてよいのでしょうか。同じ種類の害虫でも、キャベツについた場合とたばこについた場合とでは、たばこのほうが明らかに生存率が低いといわれています。また、虫の種類によっては、たばこのニコチン含有率が低い場合にしか繁殖できないものもあります。たばこの葉のニコチンは、多くは有機酸と結合した形で存在していますが、一部は遊離のニコチンとして葉の表面から揮散していますので、たばこにつく害虫はそれなりに危険を冒しているといわなければなりません。たばこ畑で観察される害虫の数は、産み付けられた卵の数に比べたら、ほんの一部に過ぎないということが多いのです。

(佐藤昌良)

 


 

乾燥を失敗するってこともあるの

 

 たばこの葉を乾燥する方法は、黄色種を乾燥する黄色乾燥法とバーレー種、在来種を乾燥する空気乾燥法に大別されます。どちらの乾燥法でも、最終的には、たばこの葉を乾燥した状態に仕上げることに変わりはありませんが、黄色種では葉全体が黄色に、バーレー種、在来種では葉全体が褐色になっていることが必要です。乾燥失敗の事例で多く見られるのは、黄色種の乾葉に緑色や褐色の部分がある、あるいは、バーレー種、在来種の乾葉に黄色の部分があるというような、本来の色とは異なる色が見られる場合です。

 たばこの乾燥では温度と湿度の管理がきわめて重要であり、そのために、基本となる温度、湿度の管理マニュアルが品種ごとに決められていますが、この管理が不適切であると、本来の色とは異なる色が残りやすくなります。実際には、この不適切な管理は、黄変期から固定期あるいは黄変期から褐変期への移行に際して起こりやすく、黄色種の乾葉に緑色の部分が残ったり、バーレー種の乾葉に黄色の部分が残ったりするのは、脱水が早すぎることに原因がありますし、また、黄色種の乾葉に褐色の部分が生じるのは、葉の水分が高いうちに温度を上げすぎることに原因があります。こうした事柄は、たばこの乾燥を経験された方ならば、どなたもご存知のことだとは思いますが、乾燥に失敗しないための基本は、乾燥に適した素質の葉を収穫することではないでしょうか。適熟葉であれば、乾燥もやりやすく、失敗も少ないのに対し、未熟葉や過熟葉の乾燥では、失敗も多く、仮にうまく仕上げたとしても、葉たばこ本来の香喫味を期待することはできません。したがって、乾燥を失敗しないための秘訣は、適熟葉を収穫できるような、正常な作柄のたばこを育てることにあるといえます。

(佐藤昌良)

 


 

移植の時期はどうやって決まるの

日本のたばこ栽培地は、沖縄県から青森県まで南北に大きな広がりをもち、本畑への移植時期も、地域によってかなり異なっています。たとえば、鹿児島県の黄色種は3月中旬に移植されるのに対し、東北地方のバーレー種は4月下旬に移植されるといった具合です。しかし、各地域の移植時期における1日の平均気温(日平均気温)の平年値を見ますと、ほぼ10℃から12℃の範囲にある場合が多く、地域や品種による違いは、それほど大きくはありません。沖縄県だけは例外ですが、鹿児島県の黄色種産地でも、富山県の黄色種産地でも、あるいは岩手県のバーレー種産地でも、移植時期の日平均気温は11℃前後となっています。
 このように、たばこの移植時期は、日平均気温が一定の水準に達する時期を目安にして決められています。しかし、なぜ日平均気温が11℃前後のときに移植するのかという点については、たばこの栽培体系全体の問題として理解しなければなりません。
 かつてのたばこ栽培では、日平均気温が15〜18℃にならなければ、移植はできないと考えられていました。しかし、苗床の保温技術や本畑の畦面被覆など、さまざまな技術改良が行われ、今日のような移植時期を早める体系が確立されてきたのです。その結果、とくに中下位葉が比較的低い温度で生長することによって、組織の緻密な葉たばこが得られるようになり、また、キュウリモザイク病や成熟期の病害として悩まされてきた立枯病も、以前に比べてかなり軽減されたといえます。現在のたばこの移植時期は、このような早作体系の一環として決められています。
 なお、一つだけ重要な点を補足しておきますと、良質な葉たばこを得るためには、成熟期に一定以上の高温条件が必要です。移植時期をあまり早くすると、生育の停滞や葉数の減少といった問題のほかに、成熟期の温度不足という問題が起きてきますので、移植時期をいたずらに早くすることは、良策とはいえません。

(佐藤昌良)

 


 

たばこは日の長さが短くなると早く開花するって本当なの

 植物の開花が日の長さ(日長)によって影響を受ける現象は光周反応とよばれ、たばこの大部分の品種は、日長が短い条件で早く開花する性質をもっています。このような性質をもつ植物は短日性植物とよばれますが、植物学の教科書を見ますと、短日性植物の例として、たばこ以外では、アサガオ、キク、オナモミ、コスモス、ダイズなどがあげられています。しかし、たばこについては、多数の品種を詳細に調べて見ると、もう少し複雑であることがわかります。まず、たばこの短日性には品種による強弱があり、多くの品種は日本の初夏から夏にかけての日長条件でも開花しますが、とくに短日性の強い品種では、秋になるまで花が咲かないという現象が見られます。このような品種の例としては、日本の在来種である「遠州(永島)」をあげることができます。
 一方、日長の影響をほとんど受けずに開花する品種(中性品種)もあり、少数ながら、日長が長いほうが早く開花する品種(長日性品種)も知られています。中性品種の例としては、トルコ種のキサンチが有名であり、長日性品種には、沖縄で自生種として収集された系統や米国の探検隊によってメキシコで収集されたTI 245などが含まれます。  
 たばこの短日性に関しては多くの研究が行われてきましたが、たばこの開花現象には日長だけが影響するのではなく、温度も大きな影響を及ぼすことがわかっています。一例として、たばこを15℃以下というような低い温度で育てますと、日長が長い場合でも早く開花し、日長が短い場合との差がほとんど認められなくなります。低温の影響については、移植時の低温による早期発蕾という現象が時折産地でも発生しますので、皆さんもよくご存知のことと思います。ですから、たばこの開花現象は、日長と温度の両方によって決まると考えるのが正しい考え方であるといえます。

(佐藤昌良)

       

       (左から、遠州(永島)、キサンチ、TI245)